特許調査をするとき、「調べたい技術にどの特許分類を使えばよいのか分からない」と悩んだことはありませんか?
特許調査では、キーワードだけでなく、IPC(国際特許分類)やCPC(共同特許分類)などの特許分類を利用することで、検索漏れを減らし、調査の精度を高めることができます。
しかし、特許分類には膨大な数の項目があるため、調査対象の技術に適した分類を探すのは、簡単な作業ではありません。
こうした問題の解決に役立つのが、欧州特許庁(EPO)が無料で公開している 「CPC Text Categoriser(CPCテキスト分類予測ツール)」 です。
このツールは、調査したい技術を文章で入力すると、AIが内容を解析し、関連性が高いと考えられるCPCを提案してくれます。
つまり、CPCの分類表を最初から一つひとつ調べなくても、技術の説明文から特許分類の候補を見つけられるのです。
今回は、「スマートウォッチなどのウェアラブル端末でユーザーの転倒を検出する技術」 を具体例として、CPC Text Categoriserの基本的な仕組みから、操作方法、特許調査での効果的な活用方法まで、分かりやすく解説します。
(以下の図は、Espacentの画面に加筆して作成しています。)
CPC Text Categoriserとは?
技術の説明文からCPCを予測するAIツール
CPC Text Categoriserは、欧州特許庁(EPO)が2023年11月に一般公開した、AIによる特許分類予測ツールです。
CPCとは、Cooperative Patent Classification(共同特許分類)の略称です。IPCよりも細分化された分類を多数備えており、技術的特徴に基づいて特許文献を効率的に検索するために利用されています。
IPC と CPC の詳しい説明は、以下の記事を参照してください。
従来、適切なCPCを探すには、分類表を調べたり、関連する特許文献に付与された分類を確認したりする必要がありました。
これに対して、CPC Text Categoriserでは、技術の特徴を文章で入力するだけで、AIが適切と思われる分類を予測します。
CPC Text Categoriser の主な特徴
このツールには、次のような特徴があります。
- 文章から分類を予測できる: 技術内容を入力するだけでCPC候補を取得できる。
- AIが関連性の高い分類を提示する: 入力した技術説明に基づいてCPCを予測する。
- 詳細な分類にも対応する: メイングループだけでなく、サブグループ単位の分類も予測できる。
- Espacenetと連携できる: 提示されたCPCを利用して、対応する特許文献を検索できる。
- 無料で利用できる: EPOが公開するWebサービスとして利用できる。
特に便利なのは、CPCの分類記号を知らなくても、調査したい技術の説明文から分類候補を探せることです。
新しい技術分野を調査する場合や、専門外の技術について特許調査を行う場合に役立つでしょう。
CPC Text Categoriser の使い方
実際の操作方法を順番に説明します。
ステップ1:CPC Text Categoriser にアクセスする
CPC Text Categoriser へのアクセスは、① Googleで「CPC Text Categoriser」と検索し、検索リストから「CPC Text Categoriser | SAP」をクリックする、あるいは、② Espacenet の Classification search 画面の「Try also the AI-based CPC Text Categoriser」をクリックします。

ステップ2:調査したい技術を英語で入力する

Technology description に、調査対象の技術を文章で入力します。
対応している言語は、英語、フランス語、ドイツ語の3言語です。日本語には対応していないため、日本語の技術説明を利用する場合は、Google翻訳などで英訳しておく必要があります。
入力語は 7~1,024語の範囲で入力します。
EPOによれば、入力文章が長いほど、AIが適切なCPCを識別しやすくなるとされています。調査したい技術的特徴を明確に記載することが重要です。
ステップ3:分類の階層を選択する
次に、分類の候補を見つける階層を「Maingroup」または「Subgroup」で選択します。
メイングループ(Maingroup)は、大きな技術分野を示す比較的大きな単位の分類です。
サブグループ(Subgroup)は、具体的な技術的特徴を表す分類です。
メイングループ、サブグループについては、「IPCからCPCまでやさしく解説」で詳しく説明していますので、そちらを参照してください。
例えば、CPCの「G08B21/00」は、「単一の特定された好ましくない,または異常な状態に応答する警報であって,他に分類されないもの」に関連するメイングループです。
その下には、「G08B21/02:人の安全を確保するための警報装置」「G08B21/04:活動がない状態(例えば高齢者の場合など)に反応する警報装置」など、より詳細な分類が存在します。
調査対象の技術分野がよく分からない場合は、まずメイングループで大まかな分類を確認するとよいでしょう。
一方、具体的な特許検索に使用するCPCを探す場合は、サブグループが有用です。

ステップ4:Advanced settingsを設定する
「Advanced settings」は、分類予測結果の表示条件を設定します。

Confidence level(信頼度)
AIが予測したCPC候補について、表示する信頼度のしきい値を調整できます。
設定値を高くすると、信頼度の低い候補が表示されにくくなります。逆に、低くすると、関連性が比較的弱いと予測された分類も確認しやすくなります。
特許調査では、関連する分類の見落としを避けることが重要です。そのため、調査の初期段階では、信頼度を低めに設定して、幅広いCPC候補を確認する方法が考えられます。
ただし、信頼度はAIによる予測の指標であり、その分類が必ず適切であることを示すものではありません。
表示件数
AIが予測したCPCのうち、画面に表示する件数を設定できます。
少ない件数では主要な候補を素早く確認できます。一方、表示件数を増やすと、関連性が低めに評価された分類も見つけやすくなります。
初期段階の調査であれば、上位10件程度、またはそれ以上の候補を確認するとよいでしょう。
信頼度と改訂日の表示
各CPC候補の信頼度や、分類の改訂日を表示することもできます。
候補を比較したり、分類体系の変更を確認したりする際に役立ちます。
ステップ5:CPCの候補を表示する
設定が終わったら、画面に表示される認証操作を行い、「Classify」をクリックします。
AIが入力文章を解析し、関連すると予測したCPC候補を表示します。
AIが提示した分類は不正確なことがありますので、AIが提示した分類の定義を確認し、その内容が検索しようとする技術に適合しているかどうかを確認します。
分類の正確な意味や適用範囲を確認する場合は、Espacenet の Classification search を利用します。
「Technology description」に入力する文章の例
入力する文章の具体例として、「スマートウォッチによる転倒検出」を考えます。
ここでは、次のようなシステムで転倒検出を行うと想定します。
- スマートウォッチに搭載された加速度センサーとジャイロセンサーでユーザーの動きを検出し、センサー情報を解析して転倒の有無を判定します。
- 転倒が検出された場合には、ユーザーに確認を求め、応答がなければ緊急連絡先に通知します。
この技術を日本語で説明すると、次のようになります。
【日本語による説明】
スマートウォッチなどのウェアラブル電子端末は、3軸加速度センサー、ジャイロセンサー、プロセッサ、無線通信部を備えています。
加速度センサーはユーザーの手首の加速度を測定し、ジャイロセンサーは角速度を測定します。
プロセッサは、時系列のセンサーデータを解析し、ユーザーの転倒の可能性を検出します。
転倒検出アルゴリズムは、急激な加速度の変化、姿勢方向の急速な変化、衝撃後の動きの減少など、転倒に特徴的な動作パターンを識別します。
また、歩行、走行、着座などの日常動作と転倒を区別することで、誤検出を抑制します。
転倒を検出した場合、スマートウォッチは警告を表示し、ユーザーに応答を求めます。
所定時間内に応答が得られない場合、無線通信部を通じて、指定された連絡先や緊急サービスに緊急通知を送信します。
Google翻訳で英文に翻訳したものが、次の通りです。
【英文翻訳例】
Wearable electronic devices, such as smartwatches, are equipped with a 3-axis accelerometer, a gyroscope, a processor, and a wireless communication module.
The accelerometer measures the acceleration of the user’s wrist, while the gyroscope measures angular velocity.
The processor analyzes time-series sensor data to detect potential falls.
The fall-detection algorithm identifies movement patterns characteristic of a fall, such as sudden changes in acceleration, rapid shifts in orientation, or a reduction in movement following an impact.
It also distinguishes between falls and routine daily activities—such as walking, running, or sitting down—to minimize false alarms.
When a fall is detected, the smartwatch displays an alert and prompts the user for a response.
If no response is received within a specified period, the device uses its wireless communication module to send an emergency notification to designated contacts or emergency services.
単に「A smartwatch detects a fall.」と入力するよりも、どのような情報を取得し、それをどのように処理するかまで記載する方が、目的に合ったCPC候補を得やすくなると考えられます。
ステップ6:提示されたCPCをEspacenetで検索する
CTC Text Categoriser で予測した分類は以下のようになりました。

表示されたサブクラスの右に表示されるマークは、カーソルを合わせると「Definition」と表示されます。このマークをクリックすると、その分類のサブクラスの説明が表示されます。
サブグループの右のマークは、カーソルを合わせると「Link to Espacenet」と表示されます。このマークをクリックすると、Espacenet Classification にジャンプして CPC が表示されます。
表示された CPC記号をコピーして Espacenet の Smart search や Advanced search に入力することができます。この際、CPC記号は空白を除いた形式で入力します。
なお、CPC Text Categoriser は分類を予測するツールであり、分類の定義を調べるツールではありません。分類の正確な意味や適用範囲を確認する場合は、Espacenet の Classification search を利用します。
使用に際して必ず知っておきたい注意点
未公開の技術情報は入力しない
これは特に重要な注意事項です。
CPC Text Categoriserの公式サイトには、次の警告が表示されています。
Please do not use the tool / CPC text categoriser for unpublished subject matter.
(未発表のテーマについては、このツール/CPCテキスト分類ツールを使用しないでください。)
Technology description に入力した情報は、AIの学習に利用される場合がありますので、未公開の開発資料から作成した説明文を、そのまま入力することは避ける必要があります。
未公開の技術について使用する場合には、公開済みの特許文献や技術論文などを基にした説明文を利用する方法が考えられます。
機密部分だけを削除した文章でも、未公開の技術的特徴が推測される可能性があります。入力内容については、情報管理ルールや秘密保持契約を優先し、慎重に判断する必要があります。
AIの予測結果が必ず正しいとは限らない
CPC Text Categoriserが提示するのは、入力文章から予測された分類候補です。そのため、表示されたCPCが調査対象技術に必ず適合するとは限りません。
また、関連するCPCがすべて提示されることも保証されていません。
例えば、スマートウォッチによる転倒検出技術を入力した場合に、転倒警報に関係するCPCが提示されたとしても、転倒判定アルゴリズムに関する特許がその分類だけで検索できるとは限りません。
分類の定義や実際の特許文献を確認することが必要です。
入力文章によって予測結果が変わる
AIは入力文章に基づいて分類を予測するため、同じ技術でも、どのような特徴を中心に説明するかによって、提示される分類が変わる可能性があります。
例えば、スマートウォッチの転倒検出技術について、次のような説明を考えます。
- 「転倒を検出して緊急通知する装置」
- 「加速度と角速度から転倒を判定する信号処理方法」
- 「機械学習によって転倒と日常動作を区別する方法」
これらはいずれも転倒検出技術に関係していますが、説明の中心となる技術的特徴が異なります。そのため、異なる分類候補が得られる可能性があります。
調査の目的に応じて入力文章を工夫することが重要です。
CPCは改訂される
CPCは固定された分類体系ではなく、技術の発展などに合わせて改訂されています。
したがって、過去の特許文献と現在のCPCとの対応関係を確認する必要がある場合もあります。
CPC Text Categoriserには改訂日を表示する機能がありますが、分類の改訂内容を詳しく調べる場合には、CPCの公式情報を確認する必要があります。
まとめ
- CPC Text Categoriserは、欧州特許庁が提供する、AIを利用した特許分類予測ツールです。
- 調査したい技術の説明文を入力するだけで、関連するCPC候補を取得できるため、特許調査の初期段階で役立ちます。
- 例えば、装置全体の説明文だけでなく、データの収集方法、判定アルゴリズム、誤検出防止、緊急通知などの観点に分けて分類予測を実施する方法により、一つの説明文だけでは見つけられなかったCPCを発見できる可能性があります。
- AIが提示した分類は、そのまま使用するのではなく、分類の定義や実際の特許文献を確認することが重要です。
- CPC Text Categoriserは、特許調査を完全に自動化するツールではありません。しかし、調査担当者が適切なCPCを見つけるための有用な支援ツールです。
最後までお読みいただきありがとうございました。





