Apple Vision Proは“ドライアイ”まで見抜くのか? ―― 赤外線画像で眼の乾きを検出するAppleの公開特許 (US2026/0083320A1)

Apple特許

長時間のパソコン作業やスマートフォンの使用で、目が乾いたり、しょぼしょぼしたりすることがあります。今回のAppleの特許出願は、ヘッドマウントデバイスが、いち早く「目が乾き始めている」ことを知らせてくれる技術です。
この発明では、ヘッドマウントデバイスに搭載された赤外線画像センサや可視画像センサを使い、ユーザーの眼の状態を解析します。

この記事では、Appleの特許 US 2026/0083320 A1 の内容から、目の乾き具合を“感覚”ではなく“データ”として扱う技術をわかりやすく解説します。

(この記事にない図面は、US20260083320A1 からご参照ください。)

発明の概要

この特許発明は、電子デバイス、特にヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなウェアラブルデバイスにおいて、ユーザーの片目または両目の画像データを取得し、その特徴量を抽出してドライアイ状態を判定する技術です。

HMDは、イメージセンサによって、眼の可視画像や赤外線画像を取得し、そこから、眼の赤み血管の拡張涙液膜の形状温度分布まばたき後の冷却速度などを抽出します。そして、これらの特徴が所定の条件を満たした場合に、ユーザーにドライアイの可能性があると判断します。

ポイントは、ドライアイをひとつの指標だけで判断していないことです。従来の単純な眼の赤み判定とは違い、この発明では、可視画像による赤みの検出、血管の太さの変化、赤外線画像による涙液膜の温度解析、さらにはまばたき後の温度低下の速度まで組み合わせます。

また、ドライアイ状態が検出された場合、デバイスは通知を表示したり、休憩を促したり、場合によってはHMD内のファンの動作を変えたりします。つまり、この技術は「検出」だけでなく「状態の軽減」までを視野に入れた発明です。

HMDは、ユーザーの目の近くにセンサを配置できます。これは、視線追跡や虹彩認証に使えるだけでなく、目の健康状態を継続的に見るためにも有利です。Appleは、HMDを単なる映像表示装置ではなく、ユーザーの身体状態を理解するインテリジェントなウェアラブルへ進化させることを狙っていると考えられます。

発明のポイント

HMDに搭載された赤外線画像センサと可視画像センサ

Fig.3 は、電子デバイスの装置構成の図です。ヘッドマウントデバイスHMD(302)には、ユーザーの眼に向けられた 赤外線画像センサ(304)と 可視画像センサ(306)が搭載されています。
赤外線画像センサは、眼球の表面温度や温度分布を取得します。可視画像センサは、眼球の様子、たとえば白目の赤みや血管の状態を捉えます。
HMDには、ファン(308)が備えられています。このファンは、単なる冷却用部品ではなく、ファンの風をユーザーの眼に送ることで、まばたき行動に影響を与えたり、ドライアイ状態を軽減したりする可能性が示されています。
従来のドライアイ対策は、ユーザーが自分で症状に気づいて、目薬を差したり、休憩したりするものでした。しかし、この発明では、デバイスがユーザーの眼の状態をセンサで継続的に把握し、軽減処置を行います。

(正確な図面は、US20260083320A1 をご参照ください。)

センサデータからドライアイ判定、そして軽減のフロー

Fig.4 は、処理の流れを示すフローチャートです。
まず、デバイスは、赤外線画像センサー(304)や可視画像センサー(306)からデータ(402)を取得します。
次に、オペレーション404特徴量を抽出します。ここで抽出される特徴量には、眼の赤み、血管の拡張、涙液膜の空間的特徴、眼表面の温度、まばたき後の冷却速度などが含まれます。
その後、オペレーション406 で、抽出された特徴量に基づいてドライアイのレベルや状態を判定します。たとえば、涙液膜の形が不均一である、眼の冷却速度が通常より遅い、白目の赤みが強い、といった条件が組み合わされることで、ドライアイ状態が示唆されます。
最後に、オペレーション408 で、デバイスは軽減策を提供します。これは、ユーザーに休憩を促す通知や、目薬や温湿布を使うことの推奨、あるいはファンを制御することなどです。
このように、この発明は単なる診断アルゴリズムではなく、対策を提供するまでの一連の流れがHMD内で完結するのです。

(正確な図面は、US20260083320A1 をご参照ください。)

涙液膜の形からドライアイを見抜く

Fig.10 は、正常な眼とドライアイ状態の眼における涙液膜の違いを示す図です。第1の眼(1002)は正常な眼を表し、第2の眼(1004)はドライアイ状態を示す眼を示します。

正常な眼である第1の眼には、比較的均一な涙液膜領域(1006)が示されています。涙液膜が安定していれば、眼の表面はなめらかに潤い、形状も比較的整ったものになります。

一方、ドライアイ状態第2の眼には、より不規則な涙液膜領域(1008)が示されています。
この涙液膜領域の均一性や形状、面積、周囲長などが、ドライアイ判定に利用できます。たとえば、涙液膜の周囲長と面積の比率が大きい場合、形状が不規則であることを示し、ドライアイ状態の指標になり得ます。

私たちはドライアイを「目が乾いている感覚」として捉えます。しかし、この特許発明では、涙液膜という薄い液体層の形状や分布を画像処理の対象として扱って、ドライアイ判定の解析を行っています。

従来のドライアイ検査では、涙液量や涙液膜破壊時間を測定することがあります。これに対して、この特許発明では、眼の画像から涙液膜の異常を推定しています。

(正確な図面は、US20260083320A11 をご参照ください。)

涙液膜(るいえきまく)は、目の表面を約7μmの厚さで覆う、油層・水層・ムチン層の3層構造からなる薄い膜です。目の乾燥を防ぎ、栄養供給、ゴミの洗い流し、鮮明な視界の確保(角膜の光学的な平滑化)に重要です。これが不安定になるとドライアイや視機能低下が引き起こされます。

まばたき後の冷却速度を測る

Fig.14は、眼の温度の時間変化をプロットしたものです。まばたき後の冷却速度である クーリングレート(1404)が表されています。

まばたきをすると、まぶたが閉じて眼の表面が覆われます。この間、涙の蒸発が抑えられたり、まぶたとの摩擦によって温度が上がったりします。図では、まばたき後に眼を開いた時点で温度が y0 に達し、その後、時間 t1 までに温度が y1 へ下がる様子が示されています。

この場合、冷却速度は、温度差 y0 – y1 を時間差 t1 – t0 で割ることで得られます。涙液が十分に存在していれば、蒸発による冷却が比較的しっかり起こります。しかし、涙液膜の量や質に問題がある場合、冷却速度が通常より遅くなる可能性があります。

このように、静止画像に対する画像認識ではなく、画像の時間変化から眼表面がどのように変化するかを観察しています。

(正確な図面は、US20260083320A1 をご参照ください。)

他の図面の説明

(図面は、US20260083320A1 をご参照ください。)

Fig.1:XR環境を提示する電子デバイス
電子デバイス(101)がXR環境を提示している様子を示しています。内部画像センサ(114a)、外部画像センサ(114b、114c)、表示部(120)などが示され、HMDが周囲環境やユーザーの目を把握できる構成であることが分かります。

Fig.2:電子デバイスのブロック図
電子デバイス(201)のブロック図には、画像センサ(206)、眼追跡センサ(212)、表示生成コンポーネント(214)、プロセッサ(218)、メモリ(220)などが示されます。

Fig.5:眼画像のセグメンテーション処理
可視画像や赤外線画像のセンサデータ(502)を受け取り、オペレーション504 でセグメンテーションを行い、オペレーション506 で眼の領域を識別する処理を示しています。涙液膜、血管、虹彩、瞳孔などを区分するための基礎処理です。

Fig.6:正常な眼と赤い眼の比較
正常な眼(602)と赤みのある眼(604)を比較する図です。正常な白目部分(606)と、赤みが強い白目部分(608)を対比することで、眼の赤みをドライアイ判定の特徴量としています。

Fig.7:眼の赤みを判定する処理
センサデータ(702)から眼の空間的特徴を抽出し、オペレーション706 で赤みレベルを求め、オペレーション708 でしきい値と比較しています。可視画像を使ったドライアイ検出の一例です。

Fig.8:血管拡張の比較
非血管拡張状態の眼(802)と血管拡張状態の眼(804)を示しています。通常の血管(806)と、太くなった血管(808)が比較され、血管の太さや血流変化をドライアイ判定の指標としています。

Fig.9:血管拡張を判定する処理
センサデータ(902)から白目領域を抽出し、オペレーション906 で血管拡張値を算出し、オペレーション908 でしきい値と比較する処理を示しています。眼の赤みをより細かく、血管レベルで評価します。

Fig.11:涙液膜の空間特性を判定する処理
センサデータ(1102)から涙液膜領域を特定し、オペレーション1106 で形状や面積などの空間特性を抽出する処理を示しています。Fig.10で示された涙液膜の不均一性を、数値化して判定するための処理です。

Fig.12:眼の温度領域を示すヒートマップ
赤外線画像として取得された眼の画像(1202)と温度凡例(1204)を示しています。温度領域(1206, 1208)を使うことで、眼のどの部分がどのように冷えているかを解析できます。

Fig.13:冷却速度を求める処理
センサデータ(1302)から温度データを抽出し、オペレーション1306 で温度変化を求め、オペレーション308 で冷却速度を判定する処理を示しています。

Fig.15:機械学習モデルによるドライアイ判定
センサデータ(1502)に対して、必要に応じて特徴抽出(1504)を行い、オペレーション1506 で機械学習モデルを適用する流れを示しています。オペレーション1508 の出力はドライアイ状態の判定に使われます。

Fig.16:ユーザーへの通知表示
ドライアイ状態が検出されたときに表示される通知(1602)を示しています。休憩、温湿布、目薬などを促すメッセージを表示し、ユーザーが目の状態に気づくためのインターフェースになります。

Fig.17:通知による軽減処理
ドライアイ状態が検出された後、オペレーション1702 で通知を表示し、オペレーション1704 で状態が改善したかを再確認する流れを示しています。単発の通知ではなく、継続的なモニタリングを前提にしています。

Fig.18:ファン制御による軽減処理
オペレーション1802 でファン速度を調整し、オペレーション1804 でドライアイ状態が残っているかを確認します。風によってまばたきを誘発したり、逆に風量を下げて涙の蒸発を抑えたりする処理が想定されています。

Fig.19:ドライアイ判定方法の全体像
ドライアイ判定方法の全体像を示しています。オペレーション1902 で赤外線画像データを受け取り、オペレーション1904 で特徴量を抽出し、オペレーション1906 で条件に基づいてドライアイ状態を判定します。

応用可能性

  • 上記のようにこの技術の応用先としては、まず Apple Vision Proのような空間コンピューティングデバイスです。HMDは、ユーザーの目の近くにセンサを配置できるため、眼の状態を継続的に観察するには理想的なプラットフォームです。
  • 特に、長時間のXR作業、仮想オフィス、3D設計、遠隔医療、教育用途などでは、ユーザーがHMDを長く装着する可能性があります。そのときに問題になるのが、目の疲れや乾燥です。デバイスがユーザーの眼の状態を把握し、適切なタイミングで休憩を促せれば、快適性が大きく向上するでしょう。
  • また、健康器具への応用が考えられます。医療機器そのものではなくても、健康リスクの早期サインを示す補助機能として価値があります。たとえば、普段より冷却速度が遅い、涙液膜が不均一になっている、赤みが増えている、といった変化を長期的に記録すれば、ユーザーは自分の目の状態をより客観的に理解できます。
  • さらに、環境制御との連携も考えられます。HMDがドライアイ傾向を検出したとき、部屋の湿度を上げる、ディスプレイ輝度を下げる、作業時間を区切る、集中モードを調整する、といった環境制御による軽減対策を行います。スマートホームやヘルスケアアプリと連携すれば、単なる警告ではなく、生活環境全体を目に優しい状態へ変えることもできます。

まとめ

  • Appleの特許 US 20260083320 A1 は、赤外線画像センサや可視画像センサを使って、HMD装着中のドライアイ状態を検出する技術です。
  • 眼の赤み、血管拡張、涙液膜の形状、まばたき後の冷却速度を組み合わせることで、目の乾きをデータとして評価します。
  • 将来のHMDは、映像を見るための道具にとどまらず、ユーザーの目を守るヘルスケアデバイスへ進化するかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 2026/0083320 A1
タイトル:Detection of Dry-eye
発明者:Irene Chen, Emmanuel B. Alabi
出願人:Apple Inc.
出願日:2025/9/9
公開日:2026/3/26
特許の詳細については US20260083320A1 を参照してください。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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