スマートウォッチやウェアラブル端末は、年々「見えないもの」を見抜く力を高めています。皮膚表面のわずかな動き、極小の距離変化、微細な振動、さらには環境や材料のごく小さな変化まで高感度に捉える技術が求められています。こうした世界で重要になるのが、極微小な変化を“拡大して”観測する仕組み”です。
その代表格が、光を使って微小な差を読み取る干渉計です。
「干渉計」と聞くと、研究室に置かれた大きな光学実験装置を思い浮かべる方も多いかもしれません。たしかに干渉計は、古典的な光学の王道に属する技術です。しかし近年は、干渉計の考え方そのものが小型化・高集積化され、先端デバイスのセンシング技術の中へ入り込んできています。とくに、スマートウォッチのように限られたスペースで高感度を求める設計では、「光の波としての性質を利用して測る」という発想で、様々なものへの測定が行われています。
この記事では、まず干渉計とは何かをわかりやすく整理したうえで、干渉計の原理を丁寧に解説します。その後、代表的な方式であるマイケルソン干渉計、マッハ・ツェンダー干渉計、フィゾー干渉計、ファブリ・ペロー干渉計、そして小型デバイスとの相性が特に注目される自己混合干渉計(SMI)まで、それぞれの特徴、動作原理、用途を順に見ていきます。
干渉計を理解すると、光学の知識が増えるだけでなく、今の先端デバイスがなぜ高感度化できるのか、その裏にある設計思想まで見えてきます。センサー技術に興味がある方、特許や先端IT技術を追っている方にとって、干渉計は知っておいて損のない技術です。
干渉計とは何か
干渉計とは、コヒーレントな光を二つ以上の経路に分け、再び重ね合わせたときに生じる干渉を利用して、長さ、変位、屈折率、表面形状、振動などを高精度に測定する技術です。
ここでポイントとなるのは、干渉計が「ものさしのように絶対量を直接読む装置」ではないという点です。干渉計が測るのは、あくまで光の位相差です。つまり、光がどれだけ進んだか、どの媒質を通ったか、その結果として波の山と谷がどれだけずれたかを見ています。
光は波として振る舞います。二つの波が重なったとき、山と山が重なれば強め合い、山と谷が重なれば弱め合います。この強め合い・弱め合いが、明暗の縞や強度変化として観測されます。干渉計は、この変化を手がかりにして、ごくわずかな物理量の変化を読み取るわけです。

なぜこれほど高感度なのでしょうか。その理由は、光の波長が非常に短いからです。可視光や近赤外光の波長はナノメートルオーダーです。したがって、対象がほんの少し動いただけでも、光の位相には無視できない変化が生じます。つまり干渉計は、微小な変位を、光の位相差という非常に鋭敏な指標へ変換する装置なのです。
この特徴は、スマートウォッチのような小型機器にとって非常に魅力的です。限られたサイズの中で高い検出感度を得るには、単に機械構造を大きくするのではなく、別の物理原理で“差を大きく見せる”必要があります。干渉計は、その役割を果たせる代表的な技術と言えます。
干渉計の原理
たとえば、同じ波長を持つ光を二つに分け、それぞれ別々の経路を通したあとで再び重ねるとします。もし二つの光がまったく同じ位相で重なれば、強く明るくなります。反対に、片方の山がもう片方の谷に重なるような関係であれば、打ち消し合って暗くなります。この明暗の変化が干渉です。
ここで、片方の経路だけがほんの少し長くなったとします。すると、その経路を通った光の位相が少し遅れます。再び二つを重ねると、もともと明るかった場所が暗くなったり、縞の位置が少しずれたりします。つまり、経路のわずかな変化が、出力の大きな変化として現れるのです。
これが、干渉計が高感度である理由です。対象物の移動や変形を直接見ているのではなく、その変化によって生じた光路差、あるいは位相差を見ているため、非常に小さな変化にも反応できます。
さらに、干渉計では「何本の光が主要に関与するか」によって性格が変わります。二つの光束の差を見る二光束干渉では、構成が理解しやすく、距離や位相差の読み取りに向いています。一方、反射面の間で光を何度も往復させる多光束干渉では、共鳴条件が鋭く現れるため、波長選択性や分解能に優れます。二光束干渉計は、後述する、マイケルソン干渉計、マッハツェンダー干渉計などが該当し、多光束干渉計は、ファブリ・ペロー干渉計が該当します。
また実用上は、二つの光がまったく別の経路を通るのか、それともほぼ同じ経路を共有するのかも重要です。経路が離れていれば、測りたい変化を大きく拾いやすい一方、振動や温度揺らぎなどの外乱にも敏感になります。逆に、共通光路型は外乱に強くしやすい傾向があります。干渉計の設計では、感度だけでなく、こうした安定性とのバランスも極めて重要です。
干渉計の種類
マイケルソン干渉計

干渉計の基本を学ぶ上で最も有名な方式
干渉計の代表例として最もよく知られているのが、マイケルソン干渉計です。構成は非常に象徴的で、光をハーフミラーで二つに分け、それぞれを別々のミラーで反射させたあと、再び重ね合わせて干渉を観測します。
この方式の良さは、光路差を非常に素直に作れることです。片方のミラーを少し動かすだけで、二つの光の位相差が変化します。そのため、距離変化や変位を高精度に測る用途に適しています。干渉計の原理を説明するときにマイケルソン干渉計がよく使われるのは、構成が比較的わかりやすく、しかも本質がきれいに現れるからです。
マイケルソン干渉計の重要なポイントは、二つの腕の長さの差が、そのまま測定信号になることです。もし片方の鏡が微小に動けば、それに応じて干渉縞が移動します。この縞の移動量を読めば、鏡がどれだけ動いたかがわかります。つまり、目に見えないほど小さな変位を、目に見える干渉縞のずれに変換しているのです。
一方で、二本の腕が空間的に分かれているため、外乱には敏感です。温度変化、振動、空気の密度揺らぎなどによっても位相差が変わるので、安定な測定には工夫が必要です。この点は、研究室の実験では高感度測定を行うための基礎となりますが、小型製品へそのまま搭載するには不利に働くこともあります。
それでも、マイケルソン干渉計は干渉計の世界の出発点として非常に重要です。ここで身につく「二つに分けて、別々に進ませ、再び重ねて差を見る」という考え方は、他の方式を理解する基礎になります。
マッハ・ツェンダー干渉計

光の経路に“測りたいもの”を入れやすい方式
マッハ・ツェンダー干渉計も、二光束干渉を使う代表的な方式です。基本の考え方はマイケルソンと似ていますが、光を最初のビームスプリッタで分け、二本の腕を進ませたあと、第二のビームスプリッタで再結合する点に特徴があります。
この構成の利点は、二つの光路が途中で比較的自由に扱えることです。たとえば、片方の腕に試料、気体、液体、あるいは位相変調器を挿入すれば、その影響が位相差として現れます。つまり、測りたい対象を光路の途中に組み込みやすいのです。
この特徴により、マッハ・ツェンダー干渉計は、屈折率変化、流体の密度分布、温度分布、化学センサーなど、多くの応用で使われてきました。また現代のフォトニクスでは、自由空間光学だけでなく、導波路上に構成されたマッハ・ツェンダー型デバイスが非常に重要です。シリコンフォトニクスや光変調器の分野では、片腕の位相を電気的あるいは熱的に変え、それを出力強度へ変換する構成がよく使われます。
このため、マッハ・ツェンダー干渉計は単なる光学実験装置ではなく、光回路の基本セルとしても理解しておく価値があります。スマートデバイスや小型センシングの世界においても、「自由空間で大型化するのではなく、光を導波路に閉じ込めて回路化する」という方向性を考えると、マッハ・ツェンダーの思想は非常に現代的です。
フィゾー干渉計

表面の平坦度や光学品質を“面で見る”方式
フィゾー干渉計は、光学部品の表面形状や平坦度、波面品質の評価で広く用いられる方式です。マイケルソンやマッハ・ツェンダーが「経路差を読む」イメージに近いのに対し、フィゾー干渉計は、面の品質を可視化するイメージが強い干渉計です。
基本原理は、基準となる参照面からの反射光と、測定対象面からの反射光を重ね、その差を干渉縞として観測するというものです。もし対象面が理想的に平坦であれば、規則正しい縞が得られます。しかし表面にうねりや誤差があると、縞が曲がったり、間隔が詰まったり広がったりします。つまり、縞の形そのものが表面誤差の情報になるのです。
このため、フィゾー干渉計はレンズ、ミラー、プリズム、平板ガラスなどの光学部品検査に非常に適しています。センサーそのものに搭載されるというよりは、むしろ高性能センサーを支える光学部品を高精度に作り込むための技術として重要です。
先端デバイスの性能は、センサー単体だけで決まるわけではありません。光学素子の品質、表面仕上げ、波面の乱れの少なさが、最終的な測定精度を左右します。そう考えると、フィゾー干渉計は「測るための装置」であると同時に、「高性能な測定系を成立させるための製造技術」でもあるのです。
ファブリ・ペロー干渉計

多重反射で鋭い共鳴をつくる高選択性の方式
ファブリ・ペロー干渉計は、二枚の高反射ミラーの間で光を何度も往復させる方式です。二光束干渉ではなく、多光束干渉の代表例として知られています。
この方式では、二枚の反射面の間隔や入射光の波長によって、光が共振条件を満たすかどうかが決まります。共振条件に合った光は強く透過し、少し外れると透過が大きく落ちます。この非常に鋭い透過特性が、ファブリ・ペロー干渉計の最大の特徴です。
言い換えると、ファブリ・ペロー干渉計は「縞を見る」よりも、「共鳴するかしないかの鋭い違いを見る」方式です。このため、高分解能の分光、波長選択フィルタ、レーザー共振器、微小キャビティセンサーなどに幅広く用いられています。
また、二枚の反射面の間隔がわずかに変化しただけでも、共鳴条件は大きく変わります。したがって、圧力、変位、音響、温度、膜厚変化などを高感度で読み取るセンサーとしても有望です。MEMS や微小光学構造と組み合わせることで、小型でありながら鋭い応答を持つデバイスを設計しやすい点も魅力です。
先端デバイスの世界では、単に光を通すだけではなく、「特定条件でだけ強く応答する」ことが重要になる場面が多くあります。その意味で、ファブリ・ペロー干渉計は、微小な変化を鋭く選別して読み出す技術として非常に存在感があります。
自己混合干渉計(SMI)

小型デバイス時代に特に注目したい干渉計
最後に紹介する自己混合干渉計(Self-Mixing Interferometer, SMI)は、近年の小型センシングと特に相性が良い方式として注目されています。
通常の干渉計では、光を外部で二つの経路に分け、最後に再結合して干渉を観測します。ところが自己混合干渉計では、レーザーから出た光の一部が対象物で反射・散乱されて再びレーザーへ戻り、その戻り光がレーザー共振器内の光と干渉します。つまり、干渉が外部の大きな光学系ではなく、レーザーの内部で起こるのです。
自己混合干渉では、ビームスプリッタや複数のミラーを精密に配置する必要が減るため、部品点数を抑えやすく、構成をコンパクトにしやすくなるという大きなメリットがあります。さらに、アライメントの自由度が減ることで、量産や小型化にも向きやすくなります。
自己混合干渉計では、戻り光の影響によってレーザー出力の強度や周波数が変調されます。その変調信号を解析することで、対象の距離、速度、振動、変位などを知ることができます。つまり、レーザーは単なる光源ではなく、発光源であると同時に検出器の一部でもあるような役割を担います。この一体感が、SMIの非常に面白いところです。
自己混合干渉計は、速度、振動、距離などの測定を高精度に行うことが可能であり、特に VCSEL や VECSEL といった半導体レーザー系との組み合わせは、小型・低消費電力・高感度が必要とされる、ウェアラブルや近接センシングの用途で積極的に活用されています。
自己混合干渉の課題としては、戻り光の強さの制御、スペックルの影響、信号解釈の非線形性、レーザー安定性への配慮などがありますが、外部の複雑な光学系が不要な高感度センサーというメリットは非常に大きいので、今後の高感度・小型センシング技術を考えるうえで、特に重要な技術です。
まとめ
干渉計は、光の位相差や共鳴条件を利用して、ごく小さな物理変化を高感度に読み取る技術です。
王道のマイケルソン干渉計、光回路化しやすいマッハ・ツェンダー干渉計、面精度評価に強いフィゾー干渉計、鋭い共鳴を利用するファブリ・ペロー干渉計、そして小型・低部品点数に強みを持つ自己混合干渉計。それぞれは競合関係というより、目的や制約に応じて使い分けられる技術群だと言えます。
スマートウォッチのような小型機器が進化する時代だからこそ、干渉計はますます重要な基盤技術になっていくでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
補足:引用記事のタイトル、URL
• マイケルソン干渉計とは
https://www.optics-words.com/wave_optics/Michelson_interferometer.html
• マイケルソン干渉計
https://ja.wikipedia.org/wiki/マイケルソン干渉計
• マッハ・ツェンダー干渉計
https://ja.wikipedia.org/wiki/マッハ・ツェンダー干渉計
• フィゾー干渉計
https://ja.wikipedia.org/wiki/フィゾー干渉計
• ファブリ・ペロー干渉計
https://ja.wikipedia.org/wiki/ファブリ・ペロー干渉計
• 半導体レーザーを用いた自己混合干渉による振動解析
https://kutarr.kochi-tech.ac.jp/record/1452/files/rb7_031-036.pdf
• US2025237492A1 SELF-MIXING INTERFERENCE BASED SENSORS FOR CHARACTERIZING TOUCH INPUT
https://worldwide.espacenet.com/patent/search/family/068160402/publication/US2025237492A1?q=US20250237492

