折りたたみディスプレイでは、画面そのものが曲がるだけでは十分ではありません。ユーザーが実際に触れる最表面には、ディスプレイを傷や衝撃から守るカバーが必要であり、ディスプレイが曲がるのにしたがってカバーも曲がります。
ところが、保護性能を高めようとして硬いガラスやセラミックを使えば、今度は「曲げる」ことが難しくなります。平らなシートを強く曲げれば、曲げの外側には引張応力、内側には圧縮応力が生じます。厚さ、曲げ半径、曲げ角度によって曲げ時の応力は変化しますので、曲げ半径を小さくするほど、「曲げる」ことは厳しくなります。
このAppleの特許では、ディスプレイだけでなく、その表面を覆うセラミック系のカバー自体にも「曲がりやすい領域」を作っています。
曲げる方法は一つではなく、あらかじめカバーを曲がった形に成形して応力を調整する方法、ガラスを局所的に薄くする「リリーフ」を設ける方法、さらに硬い小さなパネルを柔軟な層の上に並べる方法まで示されています。
この記事では、このApple特許を図面を中心に読み解きながら、この「硬い表面をどうやって折り曲げるのか」という技術を読み解きます。
(詳細な図面は、US2026/0236068A1 からご参照ください。)
特許の概要
特許番号:US 2026/0236068 A1
タイトル:FOLDABLE COVER AND DISPLAY FOR AN ELECTRONIC DEVICE
発明者:Christopher D. Jones, Dale N. Memering, Christopher C. Bartlow
出願人:Apple Inc.
出願日:2026/3/30
公開日:2026/8/13
特許の詳細については、US2026/0236068A1 を参照してください。
この特許は、折りたたみ可能なディスプレイの上に、ガラスなどのセラミック材料を含む折りたたみ可能なカバーを設ける技術です。
ディスプレイ層と、その上に配置されるカバー層とを備え、カバー層の折曲げ領域に電子機器の外表面を形成するセラミック材料を含んでおり、単に内部の有機ELディスプレイなどを曲げるのではなく、外側の保護層まで一緒に曲げようとしている点が重要です。
さらに、透明基板にリリーフ形状(浮き彫り)を形成し、そこへ基板と光学的に屈折率を合わせたフィラー(充填材)を配置する構成が独立して請求されています。また、別のアプローチとして、ベース層の上に複数のパネル層を配置した積層カバーが規定されています。
特許のポイントは、カバーを単純に「柔らかい材料へ置き換える」ことではありません。傷や衝撃から画面を守る硬い材料を残しながら、折曲げ部分だけの応力や変形の仕方を工夫するところにあります。
一体もののディスプレイとカバーを折りたためるデバイス

FIG.1B は、電子機器(100)を折りたたんだ状態です。折曲げ領域(101)の両側に、第1の非折曲げ領域(102)と第2の非折曲げ領域(104)が配置されています。開いた状態では、ディスプレイ(120)の上にカバー(110)が配置されています。
重要なのは、折曲げ領域だけに別の機械式ヒンジを露出させるのではなく、カバーとディスプレイを含む層が折曲げ領域をまたいで連続している点です。
カバーには、ガラス、強化ガラス、サファイア、ジルコニアなどのセラミック材料を利用できるとしています。こうした層によって柔軟なディスプレイを保護しつつ、カバーにも折曲げ可能な領域を持たせます。
(正確な図面は、US2026/0236068A1 をご参照ください。)
ガラスを局所的に薄くして、曲げる場所を決める

FIG.14C は、折りたたみの曲げ部の構成を示しています。
折りたたまれた電子機器(1401c)は、カバーシート(1400c)、接着剤(1414c)、ディスプレイ層(1416c)、バッキング層(1418c)を重ねた構造です。そのカバーシート(1400c)の折曲げ領域(1410c)には、レリーフ形状(1404c)とフィラー(1406c)が設けられています。
レリーフとは、ここではカバー材料を局所的に薄くするための凹部です。この部分を薄くすることで、カバーを曲げたときに基板内部に生じる応力を低減できます。凹部には柔軟な充填材を入れることができます。
ここでは、フィラーは単なる「穴埋め材」ではなく、ポリマーなどの柔軟な材料を用い、カバー基板と光学的な屈折率を近づける構成を示しています。
つまり、機械的には柔らかくして曲げやすくしながら、光学的には凹部を目立ちにくくすることを狙った構造です。
(正確な図面は、US2026/0236068A1 をご参照ください。)
レリーフの幅と形で「閉じ具合」を決める

FIG.17B は、折り曲げ半径を制限するようなレリーフ形状をもつカバーシートが折りたたまれた状態を示す図です。
カバーシート(1700)の基板(1702)には、複数のレリーフ(1704)が設けられ、その内部にフィラー(1708)が配置されています。これを曲げると、内側にあるレリーフの隙間が狭まり、フィラーが圧縮されていきます。
そして一定のところまで曲がると、レリーフがそれ以上閉じにくくなります。この状態によって最小曲げ半径(1710)を設定できます。
レリーフを広くすれば、より大きく閉じる余地があるため、小さな曲げ半径まで曲げられます。逆に狭いレリーフでは、それほど強く曲げられません。
つまり、これは単なる「割れ防止用の溝」ではなく、溝の形状そのものを使って、カバーがどの程度まで曲がるかを設計する仕組みになっています。
(正確な図面は、US2026/0236068A1 をご参照ください。)
一枚のガラスを曲げず、「小さな硬いパネル」を並べる方法

FIG.21C は、別の曲げ構造を持ったカバーシートが折りたたまれた状態を示す図です。
電子機器(2101c)のカバーシート(2100c)は、複数のパネル(2102c)と基板(2104c)によって構成されています。その下には接着剤(2114c)、柔軟なディスプレイ層(2116c)、バッキング層(2118c)が配置されています。
このカバーシートは、比較的硬いパネルを、より柔軟な基板の上に並べています。パネル同士の間には小さな隙間があり、その部分が局所的に曲がりやすい場所になります。
つまり、一枚の硬い材料全体を大きく変形させる代わりに、硬い部分を小さく分割し、その間で変形させる考え方です。
(正確な図面は、US2026/0236068A1 をご参照ください。)
その他の図面
(図面は、US2026/0236068A1 をご参照ください。)
FIG.1A は電子機器(100)の開いた状態で、ディスプレイ(120)、カバー(110)、ハウジング(130)の基本的な位置関係を示します。FIG.1B と対比すると、カバーとディスプレイが一体となって折りたたまれることが分かります。
FIG.2A~2C は、2つの折曲げ領域を反対方向に曲げるS字状の構成を、閉状態、途中状態、全開状態の順に示します。
FIG.3A~3C もS字状ですが、2つの折曲げ部の位置関係が異なる例です。
FIG.4A~4C では、2つの曲げが向き合うような三つ折り形状が示され、FIG.5A~5C では閉じたときにディスプレイ面が内側に入り、保護される別の折り方が示されています。これら FIG.2~5 から、この発明が単一の二つ折り形状だけを想定していないことが分かります。
FIG.6A~6C は、カバーシートを最初から中間的な曲がった形に成形しておき、そこから閉状態と開状態の両方へ変形させる考え方です。予備成形した状態でアニール(加熱)による応力緩和を行うことで、曲げによる応力を抑えます。
FIG.7A~7C は、FIG.6 より閉状態寄りの形に予備成形した例です。閉じたときの応力を減らせる一方、開状態では応力が増える可能性があり、どの姿勢を基準形状にするかという設計上の選択を示しています。
FIG.8A、8B、8C は、均一な円弧だけでなく、中央に平坦部を設けたり上下で曲率を変えたりする予備成形形状を示します。
FIG.9A~9C は、加熱したシートを2枚のプレートで曲げる方法です。
FIG.10A~10D は、マンドレルと呼ばれる型にシートを沿わせる方法、FIG.11A~11B は、複数のローラーの位置を変えて曲面を形成する方法を示しています。
FIG.12A~12C では、予備成形したシートをさらに強く曲げた状態で化学強化し、その後開いた状態へ戻す工程が示されています。曲げによる応力と化学強化による圧縮応力を組み合わせる考え方です。
FIG.13 は、成形時にカバーシート(1302)にできた凹部をクラッド層(1304)で埋め、ディスプレイ層(1306)との接合と光学的な見え方を整える構造です。
FIG.14A は、一つの大きなレリーフ、FIG.14B は複数の小さなリリーフを設けた例です。複数に分けることで、折曲げ領域全体の曲率をより均一にできる可能性が示されています。
FIG.15A は、基板の両面にレリーフを設けた構成で、薄くなった部分を中立軸に近づけて応力を抑えます。FIG.15B ではさらに外側に連続したカバー層を設け、表面を滑らかにする構成が追加されています。
FIG.16 は、両面に設けるレリーフの幅を非対称にした例です。曲げる方向に応じて柔軟性を変えられる構成として説明されています。
FIG.17A は FIG.17B の曲げる前の状態で、レリーフ(1704)とフィラー(1708)が並んだ状態を示しています。
FIG.18A、18B ではレリーフ群を二つに分け、その間にレリーフのない平坦領域を残します。その結果、折り曲げた際にも中央に比較的平らな部分を作れます。
FIG.19A、19B では大きさの異なる複数のレリーフ群を使い、中央を完全な平面ではなく緩やかな円弧にしています。つまり、レリーフの寸法や配置によって折曲げ後の外形そのものを設計できます。
FIG.20A、20B は、レリーフを基板から削り取るのではなく、複数の層を積み重ねることで局所的に薄い領域を作る方法です。FIG.20C は、その積層カバーを実際に折り曲げた電子機器へ組み込んだ状態を示します。
FIG.21A は硬いパネル(2102a)を柔軟な基板(2104a)上に間隔を空けて配置する構造、FIG.21B はパネル(2102b)を基板(2104b)へ部分的に埋め込む構造です。後者では基板自体がパネル間を埋めるため、別のフィラーを不要にできる例が示されています。
FIG.22 は、局所的に薄くした部分と通常厚さの部分で、化学強化層の深さD1、D2を変える例です。FIG.23 は、その差を作るために薄肉部をマスクしてイオン交換を制御する方法を示します。
FIG.24A、24B では、シートの表側と裏側で化学強化の深さを非対称にする方法と、それによる圧縮応力の分布を模式的に示しています。
FIG.25 は製造工程のフローです。シートを曲げる工程(2502)、アニール(2504)、必要に応じてさらに曲げる工程(2506)、化学強化(2508)という流れになっています。
FIG.26 は、電子機器全体のブロック図です。メモリ(2602)、プロセッサ(2604)、バッテリー(2608)、ディスプレイ(2614)、センサー(2620)などが示され、折曲げ状態を検出して表示内容を切り替える構成も説明されています。
考察
この特許では、折りたたみデバイスを「柔らかい材料を使うことで折りたたみ易くする」というアプローチではなく、構造を工夫することで実現しています。
ディスプレイの最表面は、傷や衝撃に対する強さ、光学的な透明性、滑らかな触感などが求められますが、それらを優先するために表面を硬くすると曲げにくくなります。
そこで、材料そのものを極端に柔らかくするのではなく、変形させる場所と変形量を構造側で管理する方法が多く示されています。FIG.17B のレリーフはその代表で、「どこが曲がるか」だけでなく「どこまで曲がるか」まで形状で規定できます。
一方で、FIG.14 とFIG.21 は、同じ「曲げられる硬いカバー」という課題に対する異なる解決方法が示されています。一枚の材料を局所的に薄くするのか、硬い材料を小さなパネルへ分割するのか。それぞれ、表面の連続性、製造方法、曲げやすさ、耐久性の間で異なるトレードオフが発生し、計決されています。
この特許からは、Appleが折りたたみ機器の検討において、ディスプレイパネルだけではなく、ユーザーが直接触れる最表面の材料と、その折曲げ時の応力まで含めた構造設計を検討していることがうかがえます。
(上記は筆者の個人的な意見です。)
まとめ
- US 2026/0236068 A1は、柔軟なディスプレイと、その上を覆う折りたたみ可能なセラミック系カバーに関する公開特許です。
- カバーを局所的に薄くするレリーフと柔軟なフィラーを組み合わせ、折曲げ時の応力や最小曲げ半径を管理する構造が示されています。
- 別の方式として、硬い小型パネルを柔軟な基板上に並べる積層カバーも提案されています。
- 将来の折りたたみ機器では、ディスプレイだけでなく、その表面を保護するカバーをどのように曲げるかが重要な設計課題になる可能性があります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。


