折りたたみスマートフォンの魅力は、閉じればコンパクト、開けば大画面という点にあります。一方で、実際に製品を作るとなると難しいのが、「曲がるディスプレイをどう扱うか」です。
柔らかいディスプレイを何度も折り曲げれば、中央に折り癖やしわが残る可能性があります。逆に、折りたたんだときには、曲げ部分のディスプレイがヒンジから浮き上がってしまうことも考えなければなりません。
Appleが出願した今回の特許で興味深いのは、ディスプレイを筐体に完全に固定してしまうのではなく、端末の開閉に合わせてディスプレイそのものをわずかに移動させ、さらに「引っ張る力」と「押し込む力」を使い分けるという考え方です。明細書では、開いた状態では張力によってしわを抑え、閉じた状態では圧縮力によってディスプレイをヒンジ側へ押す構成が説明されています。
この記事では、Appleの公開特許 US2026/0122799A1 から、折りたたみデバイスの画面の機構について図面を基に詳しく解説します。
(詳細な図面は、US2026/0122799A1 からご参照ください。)
特許の概要
特許番号:US 2026/0122799 A1
タイトル:Electronic Devices With Displays
発明者:James A. Stryker、Kevin M. Robinson、Daniel C. Park、Adam T. Garelli、Bradley J. Hamel、Bradley S. Crooks、Keith J. Hendren、Robert Y. Cao、Scott J. Krahn、Matthew Derry
出願人:Apple Inc.
出願日:2025/9/11
登録日:2026/4/30
特許の詳細については、US2026/0122799A1 を参照してください。
この公開特許は、折りたたみ端末の開閉に合わせて、フレキシブルディスプレイの位置と張力を機械的に調整する技術についての発明です。
ポイントは、ディスプレイが筐体に対して完全に動かない構造ではないことです。表示パネルを支えるディスプレイプレートは、筐体に対して滑ることができ、必要に応じて低摩擦のせん断層を間に配置することも想定されています。
なぜ画面を動かす必要があるのでしょうか。
例えばローラー型のヒンジでは、ディスプレイが曲がる軸とヒンジが回転する軸がずれる場合があります。そのまま開閉すると、ヒンジと画面の間で必要となる長さが変化するため、その差をディスプレイの移動で吸収します。一方、ティアドロップ型ヒンジでは両軸を一致させられる場合がありますが、それでも製造誤差や長期使用による変化を吸収するためにディスプレイを動かす構成が考えられています。
さらに今回の特許では、この「画面を動かせる構造」を、単なる寸法調整だけに使っていません。
開いたときには画面を左右へ引っ張り、折り癖やしわを減らす。折りたたんだときには逆に中央へ押し込み、曲げ部分がヒンジから浮かないようにする。つまり、ディスプレイを受動的に曲げるのではなく、端末の状態に応じて力のかけ方まで変えるところが大きな特徴です。
開くと画面を左右に引っ張り、折り目を抑える

FIG.5 は、折りたたみデバイスが開いた状態を横から見た図です。
中央にヒンジ(30)があり、その左右に筐体部分(12-1, 12-2)、表示パネル部分(14P-1, 14P-2)、ディスプレイプレート(38-1, 38-2)が配置されています。
ここで重要なのが、左右にある張力アセンブリ(44)です。
端末を開くと、左側では力(F1)によって表示パネル部分(14P-1)が方向(300)へ、右側では力(F2)によって表示パネル部分(14P-2)が方向(302)へ動かされます。つまり、画面を中央から左右へ引っ張るような力が加わります。
折りたたみディスプレイは、閉じていたときの曲げ形状が中央の曲げ領域(62)に残り、開いても折り目(36)として現れることがあります。FIG.5の構成では、左右方向への張力によってディスプレイ(14)を平らにし、しわや座屈を抑えます。
さらに明細書では、この機構が製造時の寸法誤差だけでなく、落下などによって筐体間の距離に小さな変化が生じた場合の吸収にも利用できると説明されています。
つまり、折り目を「表示処理で目立たなくする」のではなく、画面そのものに機械的な張力を与えて平らにしようとしているわけです。
(正確な図面は、US2026/0122799A1 をご参照ください。)
閉じると、今度は画面をヒンジへ押し込む

FIG.6 は、端末が折りたたまれた状態のヒンジ付近を示した図です。
この場合は状況が逆になります。端末(10)は折りたたまれ、ディスプレイ(14)がヒンジ(30)の周囲を大きく湾曲しています。
ここで働くのが圧縮アセンブリ(42)です。
左側の圧縮アセンブリ(42)はディスプレイプレート(38-1)へ力(F3)を、右側はディスプレイプレート(38-2)へ力(F4)を加えます。これによって表示パネル部分(14P-1, 14P-2)が方向(304)、つまりヒンジ側へ移動します。
この動作は、ディスプレイがテント状態になることを防ぐために行われます。
柔軟なシートを曲げる場面を想像すると分かりやすいと思います。曲げたシートに余分な長さや力が生じると、曲面が内側の支持物から離れ、テントのように浮き上がる場合があります。特許公報では、このようにディスプレイがヒンジ(30)から離れる状態をテントと呼んでいます。
そこで、閉じたときには、開いた状態とは反対にディスプレイを中央へ寄せ、曲げ領域(62)をヒンジ側へ押します。
さらに興味深いのは、張力と圧縮力を常に同時にかけるのではなく、端末の開閉角度によって作用させる範囲を変えられることです。例えばほぼ180度の開状態では張力を働かせ、折り始めると張力を弱め、圧縮側を優勢にする構成になっています。
つまり、この部分の機構は、「開けば引っ張る、閉じれば押し込む」という、状態に応じたディスプレイの力学制御を考慮したものになっています。
(正確な図面は、US2026/0122799A1 をご参照ください。)
ヒンジを回す動きで、ディスプレイまでスライドさせる

FIG.10 は、実際にどのように動くのかを示した図です。左右の筐体部分(12-1, 12-2)の間にヒンジ(30)があり、そのヒンジをまたぐ2本のストラップ(88, 90)が描かれています。それぞれのストラップはレバー(92)に接続され、レバー(92)は筐体側の支点(98)を中心に回転します。ディスプレイ側は支点(94)でレバーに接続されています。
興味深いのは、2本のストラップ(88, 90)がヒンジ回転軸(28H)に対して同じ位置を通っていない点です。
内側のストラップ(88)と外側のストラップ(90)は、ヒンジ軸に対する高さが異なります。そのため端末を開閉すると、ヒンジを通るそれぞれのストラップの実質的な長さが逆方向に変化します。
例えば端末を開くと、一方のストラップはヒンジ側へ、もう一方はヒンジから離れる方向へ動きます。その動きをレバー(92)へ伝えることで、表示パネルを筐体に対してスライドさせます。
さらに、ストラップが接続される支点(96, 100)から筐体側支点(98)までの距離(D1)より、表示側支点(94)までの距離(D2)を大きくすれば、レバーによって移動量を増幅できます。
このように、ユーザーが端末を開閉する動作により、そのヒンジの動きがストラップとレバーを通じて、ディスプレイを適切な位置へ動かす力として利用されるのです。
(正確な図面は、US2026/0122799A1 をご参照ください。)
1つの機構で「引っ張る」と「押し込む」を切り替える

FIG.17は、今回の発明の考え方をさらに一歩進めた図です。
左右にはハウジング部(12-1, 12-2)に取り付けられたアセンブリ(400-1, 400-2)があり、それぞれフレーム(402)、レバー(404)、スプリング(406)、シャトル(418)などを備えています。そして左右の機構を、ヒンジ軸(28H)を横切るストラップ(88-1, 88-2)が接続しています。
端末が完全に開いていると、スプリング(406)がレバー(404)を押し、レバーがシャトル(418)をヒンジから外側へ動かします。左側では 方向500、右側では 方向502 へ表示パネル部分(14P-1、14P-2(Fig.5を参照))が押されるため、ディスプレイには左右へ広げる張力がかかります。
そこから端末を閉じていくと、レバー(404)と調整ねじ(408)の関係が変化し、今度はストラップ(88-1, 88-2)へ力が伝わります。
さらに閉じるとストラップによる作用が主体になり、左右の表示パネル部分(14P-1, 14P-2)がヒンジ(30)側へ引き寄せられます。その結果、曲げ部分には圧縮力がかかり、ヒンジからの浮き上がりを抑えます。
つまり FIG.17 では、別々の仕組みで「開状態」と「閉状態」を処理するだけではなく、端末の開閉位置によって同じモジュール内で力の伝わり方を変えることが考えられています。
(正確な図面は、US2026/0122799A1 をご参照ください。)
その他の図面
(図面は、US2026/0122799A1 をご参照ください。)
FIG.1:電子デバイス全体の基本構成
電子デバイス(10)の中に制御回路(20)、通信回路(22)、入出力デバイス(24)、ディスプレイ(14)、センサー(16)などを備える一般構成を示しています。
FIG.2:折りたたみ端末の外観
ディスプレイ(14)、筐体(12)、曲げ軸(28)、曲げ領域(62)、ヒンジ(30)の位置関係を示します。左右の部分(60)がヒンジを中心に回転する基本形です。
FIG.3:ディスプレイとヒンジの断面構造
表示カバー層(14CG)、表示パネル(14P)、ヒンジ(30)、ヒンジ軸(28H)などの位置関係を示しています。ローラー型ヒンジでは表示側の曲げ軸(28)とヒンジ軸(28H)がずれる場合があることが、この後の移動アセンブリを理解するポイントです。
FIG.4:張力・圧縮・移動機構を組み込んだ基本構成
ディスプレイ(14)、ディスプレイプレート(38)、移動アセンブリ(306)、張力アセンブリ(44)、圧縮アセンブリ(42)の位置関係を示す基本図です。FIG.5 と FIG.6 を理解するための土台となります。
FIG.7:張力・圧縮機構の配置例
ヒンジ(30)の両側に複数の張力アセンブリ(44)と圧縮アセンブリ(42)を配置しています。複数設けることで、ディスプレイへより均等に力を加える構成が示されています。
FIG.8:スライダーとスプリングによる切り替え機構
圧縮アセンブリ(42)と張力アセンブリ(44)を1つのモジュール(46)として構成し、スライダー(26A、26B)とスプリング(50、52)でディスプレイを動かします。ギャップ A、B、Cによって、張力と圧縮力が働き始める位置を調整できます。
FIG.9:開閉に伴って「張力→無負荷→圧縮」と変化する様子
端末を閉じるにつれて、セグメント82 の張力状態から、必要に応じてセグメント84 の無負荷領域を経て、セグメント86 の圧縮状態へ移ることを示しています。
FIG.11:1本のストラップと戻しバネを使う構成
FIG.10 の2本のストラップを簡略化し、ストラップ(88)とスプリング(106)を組み合わせています。スプリングはストラップの張力を保ち、座屈を防ぎます。
FIG.12:スライダーを加えたストラップ・レバー機構
内側ストラップ(88)、外側ストラップ(90)、レバー(92)、スライダー(166)、スロット(164)を組み合わせ、ヒンジの開閉運動から表示パネル部分(14P-1)を移動させます。
FIG.13:戻しバネを備えた別方式
ストラップ(88)にリターンスプリング(106)を組み合わせ、閉じる際のストラップの座屈を抑えながらレバー(92)を動作させる構成です。
FIG.14:クランクレバーによって張力を安定させる構成
クランクレバー(92)とスプリング(106)の幾何学的関係を変化させることで、開閉中にほぼ一定のトルクを得ようとしています。
FIG.15:ワッツリンク機構で直線運動を作る構成
ワッツリンク機構(138)を使って、レバーの円弧運動ではなく、ディスプレイへほぼ直線的な動きを伝えます。明細書では、スライダーによる摩擦を減らし、ディスプレイ位置の不確実性を減らせる点が説明されています。
FIG.16:ワッツリンク機構を張力付与にも利用
ワッツリンク機構(140)、レバー(162)、カム(156)、スプリング(154)を組み合わせ、所定角度を超えて端末が開いたときにディスプレイへ張力を伝える構成です。
FIG.18:完全に閉じた後は圧縮力を逃がす構成
レバー(404)がストッパー(480)へ到達すると、ストラップ(88-1, 88-2)への荷重を解除できます。閉じた状態で長時間保存されても、ディスプレイへ圧縮力がかかり続けることを避ける狙いです。
FIG.19:片側のバネ付きレバーを省略した構成
FIG.17を簡略化し、1つのスプリング駆動レバー(404)で両側のディスプレイに張力と圧縮を与える方式です。2つのバネの釣り合いだけに依存せず、ディスプレイ位置を決められる利点も説明されています。
考察
折りたたみディスプレイでは、柔らかくすれば曲げやすくなる一方、しわや座屈、位置ずれを生じやすくなります。反対に、強く固定すれば形状は安定しますが、折り曲げ時に無理な応力がかかる可能性があるので、高度な設計技術が必要となります。
今回の方式では、ディスプレイを筐体に対して少し動けるようにして、その自由度を利用しています。開いたときには張力を与えて平坦化し、閉じる途中では必要な長さの変化を吸収し、折りたたんだときにはヒンジ側へ寄せる。このアイデアにより、相反する要求を解決しています。
一方、構造が複雑になることは無視できません。ストラップ、レバー、スプリング、スライダーなどを増やせば、端末内部のスペースを使います。折りたたみスマートフォンでは、バッテリー、カメラ、基板、ヒンジなどが限られた厚みを奪い合うため、ディスプレイ制御機構をどれだけ薄く、耐久性高く作れるかが重要になると考えられます。
この特許には、FIG.15やFIG.16のワッツリンク機構、FIG.17の統合モジュール、FIG.19の簡略化構成など複数案が示されています。Appleが特定の1方式だけではなく、摩擦、部品数、移動精度、荷重の制御などを含め、複数の機械設計を検討していることが読み取れます。
またFIG.18では、完全に閉じた後には圧縮荷重を解除する考え方まで示されています。これは単に「折りたためればよい」のではなく、閉じた状態で長時間保管されることも考えている設計です。
これは、単に折りたたむ iPhone の構造の発明ではなく、「何万回開閉しても、開けば平らで、閉じれば適切な曲率を保つ」という長期間故障することなく安定して使えるメカニズムの発明と理解するのが正しいのかもしれません。
今回の特許は、課題に対して「画面を固定する」のではなく「必要に応じて画面を動かす」という方向から解決しようとしている点に面白さがあります。
(上記は筆者の個人的な意見です。)
まとめ
- 従来の折りたたみディスプレイでは、折り曲げによるしわ・折り癖や、ヒンジからの浮き上がりをどう抑えるかが重要な設計課題になります。
- この公開特許では、ディスプレイを筐体に対してスライド可能にし、開いた状態では張力、閉じる側では圧縮力を加える構成が提案されています。
- 特に重要なのは、ストラップ、レバー、スプリング、ワッツリンク機構などを使い、端末を開閉する動きそのものをディスプレイ位置の調整に利用する点です。
- 製品化された場合には、折り目や浮きを抑えながら、より安定した折りたたみディスプレイを実現する方向につながる可能性があります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

