AirPodsケースが「小さなiPod」に進化する?―― Appleのタッチ画面付き充電ケース(US12001753B2)

Apple特許

ワイヤレスイヤホンの充電ケースは、通常、イヤホンを収納し、持ち運び、バッテリーを充電するという役割を持っています。
今回のAppleの特許には、この小さなケースを「イヤホン操作の中心」に変える構想が描かれています。ケースの表面にはタッチディスプレイがあり、音楽の再生や音量調整、音響モードの変更までコントロール可能です。
さらに、近くのスマートスピーカーやテレビを検出し、音声の出力先を切り替える機能も想定されています。
この特許は、これまでスマートフォンに集中していた操作機能を、身近な周辺機器へ分散させるユーザーインターフェースの提案です。

この記事では、Appleの特許 US12001753B2 の内容から、Appleが描くAirPodsの将来像を特許図面と技術ポイントから深掘りして解説していきます。

(この記事にない図面は、US12001753B2 からご参照ください。)

発明の概要

特許番号:US 12001753 B2
タイトル:Devices, Methods, and Graphical User Interfaces for Interactions with a Headphone Case
発明者:Darius Satongar, William D. Lindmeier, Per Haakan Linus Persson
出願人:Apple Inc.
出願日:2022/9/19
公開日:2024/6/4
(特許の詳細については、US12001753B2 を参照してください。)

Appleのこの特許は、イヤホンケースに入力装置やディスプレイを設け、ケースからワイヤレスイヤホンを制御する技術に関するものです。イヤホンケースは、イヤホンを収納・充電するだけでなく、タッチ操作、プッシュ操作、スワイプ、回転操作、触覚フィードバックなどを利用できる情報端末として構成されています。

これまでのワイヤレスイヤホンの再生操作や音響設定は、スマートフォンなどからの操作、またはイヤホン本体に内蔵された小さなセンサーを使って行っていました。
本特許は、ワイヤレスイヤホンケースを、イヤホン用のインタラクティブな操作端末に変える特許です。中心となる技術は、タッチディスプレイを備えたイヤホンケース、複数機器間の無線連携、状況に応じて変化するGUI、触覚フィードバック、イヤホンの音響モード制御、そして複数の音源や出力先を直感的に切り替えるユーザーインターフェースです。

タッチディスプレイを備えたイヤホンケース

Fig. 4C は、イヤホンケースの図です。
イヤホンケース(500)は、前面(508)と背面(510)を備えています。前面(508)にはタッチセンシティブディスプレイ(502)が配置され、上部にはヒンジ式の蓋(506)があります。蓋(506)を開くと、ワイヤレスイヤホン(504)を収納・充電できる構造になっています。前面(508)の大部分にディスプレイ(502)がついている点が特徴的です。

イヤホン側で操作する場合は、軸(ステム)部分のセンサーをつまみますが、歩行中や手袋をしているときには難しい場合があります。これに対して、ケース(500)のディスプレイ(502)であれば、曲名、再生状態、音量、音響モードなどを確認しながら操作できます。

特許には、ディスプレイ(502)と入力面が一体化したタッチスクリーンだけでなく、表示部と入力部を別の面に設ける構成も想定されています。例えば、前面に表示部を配置し、背面をタッチパッドとして利用することも可能です。

(正確な図面は、US12001753B2 をご参照ください。)

ケース・イヤホン・音源の通信構造

Fig. 5A は、通信構造と基本操作を示す図です。
イヤホンケース(500)は、双方向通信(516)によってイヤホン(504)と接続されます。また、双方向通信(518)によって音源(514)とも接続されます。音源(514)は、スマートフォンなどの端末だけでなく、音楽ストリーミングサービスやクラウドサービスでも構いません。

一方、音声ストリーム(515)は、音源(514)からイヤホン(504)へ直接送られます。つまりイヤホンケース(500)は、必ずしも音楽データの中継装置になる必要はありません。ケースが担うのは、主としてコマンドとステータス情報の交換です。

ディスプレイ(502)には、ユーザーインターフェース(520)が表示されます。画面には、巻き戻しボタン(522A)、一時停止ボタン(522B)、早送りボタン(522C)、再生位置を示すスクラバー(503)、音源を示す音楽アイコン(526)などが配置されています。

このイヤホンケースがあれば、例えば、スマートフォンがバッグの中に入っていても、ケース(500)の一時停止ボタン(522B)をタップすれば、イヤホン(504)へ再生停止命令を送れます。ケース(500)の画面は、現在再生中の曲や音源の状態を表示するので、イヤホン本体側で操作する場合よりも状況を理解しやすくなります。ユーザーはスマートフォンを取り出さなくても良くなります。

また、ケース(500)、イヤホン(504)、音源(514)がそれぞれ独立して通信できる構成には、システム設計上の利点があります。ケースの電池残量が少なくなっても、音源(514)とイヤホン(504)の音声通信を維持できる可能性があります。また、ケース(500)は高品質な音声ストリームを常時処理せず、操作情報だけを扱う構成にできるため、消費電力を抑えられる可能性もあります。

(正確な図面は、US12001753B2 をご参照ください。)

ケースを握ることによる音響モードの切り替え

Fig. 5AD では、イヤホン(504)が動画の音声を出力している状態で、ユーザーがケース(500)を握ることで音響モードを切り替える操作が示されています。

ユーザーの手によって、ケース(500)の側面または筐体を圧迫するスクイーズ入力(578)が加えられます。この入力を受けると、ケース(500)はイヤホン(504)へ音響モードを切り替える命令を送ります。スクイーズ入力があるたびに、通常の音響モード、空間オーディオ、ヘッドトラッキングを伴う空間オーディオなどに順次切り替える動作も記載されています。
ディスプレイを見ずにモード切り替えの操作が行えるという利点があります。
また、ケース(500)には触覚出力機能を設けることも想定されています。モードが切り替わった際に短い振動を発生させれば、ユーザーは画面を見なくても操作結果を確認できます。

これは、視覚、聴覚、触覚を組み合わせる「マルチモーダル・インターフェース」の一例です。

(正確な図面は、US12001753B2 をご参照ください。)

近くのデバイスからイヤホンへ音声再生を移動する

Fig. 5AR では、図の右側にスマートスピーカー(550)などの外部装置があり、オーディオブックの音声(5021)を再生しています。
図の近接マップ(5016)は、ケース(500)とイヤホン(504)が外部装置(550)の範囲内にあることを示しています。

ケース(500)のディスプレイ(502)には、スマートスピーカー(550)からイヤホン(504)へ音声転送するためのスライドコントロール(5018)が表示されています。
ユーザーがスライドコントロール(5018)を右にスライドすると、オーディオブックの再生先がスマートスピーカー(550)からイヤホン(504)へ移ります。

この機能は、リビングにあるスマートスピーカーで聞いていたオーディオブックを、外出に持っていく際に便利です。
ユーザーは、オーディオブックを再生しているスマートスピーカーに近づき、画面上のイヤホンのアイコンをオーディオブックにスライドします。すると、再生位置を引き継いだままでイヤホンに再生を移すことができます。
再生が移る際、右へのスライドに連動して、ユーザーがそれまで聞いていたミュージック音源の音量が減衰し、オーバーラップしてオーディオブック音源の音量が大きくなるというギミックも記載されています。

(正確な図面は、US12001753B2 をご参照ください。)

他の図面の説明

(図面は US12001753B2 をご参照ください。)

Fig. 1A:携帯型多機能端末の構成図
メモリ(102)、CPU(120)、RF回路(108)、音声回路(110)、タッチディスプレイ(112)、触覚出力生成器(167)など、スマートフォン型端末のハードウェアおよびソフトウェア構成を示します。

Fig. 1B:タッチイベントの処理構造
イベントソーター(170)、イベント認識器(180)、イベントハンドラー(190)などにより、タップやスワイプを認識して画面表示やデータを更新する処理を示します。

Fig. 2:タッチスクリーン端末への入力
指(202)やスタイラス(203)を用い、タッチスクリーン(112)上のGUIを操作する基本形態を示します。

Fig. 3A:外部の多機能装置の構成図
CPU(310)、ディスプレイ(340)、タッチパッド(355)、無線インターフェース(311)などを備えたパソコンやタブレット型装置(300)を示します。

Fig. 3B:ワイヤレスイヤホンの構成
イヤホン(301)に、マイク(302)、近接センサー(304)、スピーカー(306)、入力装置(308)、バッテリー(309)、無線インターフェース(315)などを設ける構成です。

Fig. 3C:ノイズ制御の仕組み
外部環境音(322)と耳内へ届く環境音(324)を検出し、逆位相信号(326-2)によって環境音を低減するアクティブノイズキャンセリングを示します。

Fig. 3D:イヤホンケース内部の電子構成
ケース(342)にCPU(343)、ディスプレイ(345)、入力装置(346)、触覚出力生成器(347)、無線通信部(348)、バッテリー(363)、充電器(364)、イヤホン充電部(366)などを搭載します。

Fig. 4A:アプリケーションメニュー
電話、メール、音楽、地図、天気などのアプリアイコンを表示する一般的なタッチ式メニューの例です。

Fig. 4B:表示部とタッチ面を分離した操作
タッチ面(451)上の接触(460, 462)を、表示画面(450)上の位置(468, 470)に対応付け、背面タッチなどを可能にします。

Fig. 5B~5D:再生操作に対する視覚フィードバック
Fig. 5Bでは入力(528)に応じて操作対象を強調し、Fig. 5Cでは早送り、Fig. 5Dでは操作中の触覚的または視覚的フィードバックを示します。

Fig. 5E~5I:一時停止と音声アシスタント
Fig. 5E、Fig. 5Fは音楽の一時停止とタイマー表示を、Fig. 5Gはデジタルアシスタントの起動を、Fig. 5H、Fig. 5Iは短押し入力による音楽の停止とその後の再生停止状態を示します。

Fig. 5J~5L:回転ジェスチャーによる音量調整
ディスプレイ(502)上の接触(542)を円周方向に動かし、音量を連続的に増減させる操作を示します。

Fig. 5M~5R:スワイプによる曲送りとお気に入り登録
横方向のスワイプ入力で次の曲へ移動し、縦方向のスワイプで曲をお気に入りとして登録する例を示します。

Fig. 5S~5W:音声出力先の探索と選択
ケース(500)、イヤホン(504)、音源装置(550)の位置関係を近接マップ(548)で表し、利用可能な音声出力先を探して選択する流れを示します。

Fig. 5X~5AA:再生位置の移動
スワイプジェスチャー(564, 568)により、曲の再生位置を早送りまたは巻き戻しする操作を示します。

Fig. 5AB~5AC:音声ソースの変更と触覚フィードバック
音楽アプリから動画アプリへ切り替わる際に、音源を示すアイコン(572, 576)や触覚フィードバック(574)によって変更を通知します。

Fig. 5AD~5AF:スクイーズ入力によるオーディオ出力モード選択
ケースへのスクイーズ入力(580, 582, 584)に応じて、空間オーディオやヘッドトラッキングを含むオーディオ出力モードを順番に切り替えます。

Fig. 5AG~5AH:メッセージ通知と読み上げ
メッセージ通知(586)を表示し、入力(588)に応じてメッセージ内容をイヤホン(504)から読み上げる例です。

Fig. 5AI~5AQ:複数のアプリの切り替えによる音声体験
天気アプリ、ラジオアプリ、音楽アプリなどの音声を、異なる仮想空間位置(592, 596)から聞こえるように配置し、スワイプ入力(598, 5006, 5014)などで切り替えます。

Fig. 5AS~5AU:音楽とオーディオブックのクロスフェード
ドラッグ操作(5022)に連動して、音楽とオーディオブックの音量比を音声ミックスチャート(5026)上で変化させ、急に切り替えず滑らかに移行させます。

Fig. 5AV~5AY:オーディオブック操作画面
戻る、再生・一時停止、進むなどの操作部(5030~5034)を表示し、イヤホンケース(500)からオーディオブックを操作します。

Fig. 5AZ:地図アプリの音声案内
地図インターフェース(5046)に、次の案内(5048)、前の案内(5050)、現在の案内(5052)を表示し、イヤホン(504)から経路案内を読み上げます。

Fig. 5AAA:近くのテレビ音声をイヤホンへ移す
テレビなどの外部装置(5054)を近接マップ(5016)で検出し、その音声をイヤホン(504)へ転送できることを画面(5056)で知らせます。

Fig. 6A~6F:ケース入力によるイヤホン制御方法
方法600 のフローチャートです。ケースが入力を受け取り、音源との通信を維持しながら、再生、一時停止、曲送り、音量変更、音響モード切替などをイヤホンに実行させます。

Fig. 7A~7B:表示内容と連動した音声機能の制御方法
方法700 のフローチャートです。ケースの画面に機能情報を表示し、入力を受けると、イヤホンや音源装置へ対応する音声出力命令を送ります。

考察

この特許は、「AirPodsケースに小さな画面を付けるアイデア」だけでなく、イヤホンケースを「状況に応じて変化する物理的な操作ハブ」にする発想だと考えられます。
スマートフォンは多機能であることから、一つの操作を行うまでに多くの手順が必要です。端末を取り出し、ロックを解除し、アプリを探し、目的のボタンを押さなければなりません。
しかしイヤホンケースなら、イヤホンを使っている状況に限定して、必要な操作だけを表示できます。音楽再生中なら再生ボタンを表示し、メッセージを受信すれば通知を表示し、スマートスピーカーに近づけば音声転送用の操作を表示する。このような「状況依存型UI」は、小型画面と相性がよい設計です。

将来的には、生成AIとの組み合わせも考えられます。
例えば、ケースに「今届いた重要な通知だけを要約して表示する」「現在聞いているポッドキャストの内容について質問する」「周囲の騒音に応じて最適な音響モードを提案する」といった機能を持たせることができます。

一方で、スマートウォッチを持っているユーザーにとっては、機能が重複する可能性があります。
そのため実際に製品化する際は、スマートウォッチの代替を目指すよりも、音声機能に特化した高速で簡単な操作端末として設計する方が合理的でしょう。
本特許が示しているのは、イヤホンケースという小さな製品にも、まだユーザーインターフェースを再設計する余地があるということです。

(上記は筆者の個人的な意見です。)

まとめ

  • AppleのUS 12001753 B2は、イヤホンケースを充電器から操作端末へ発展させる特許です。
  • タッチディスプレイを使い、再生操作、音量変更、通知確認、音響モード切替などを行います。
  • 近くのスピーカーやテレビを検出し、イヤホンの音声入力源を切り替える構成も含まれます。
  • 技術の核心は画面そのものではなく、音声に関する複数の機器やサービスをケースで統合操作する点にあります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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