ディスプレイを壊さず曲げるヒンジ、フラップ ―― Appleの折りたたみデバイスの特許 (US12663837B2)

Apple特許

スマートフォンやタブレットにおいて折りたたみ式デバイスはすでに珍しい存在ではなくなりました。
しかし、ディスプレイを折り曲げるという動作は、見た目ほど簡単ではありません。
フレキシブルディスプレイは薄く、精密で、しかも曲げすぎると配線や表示層が壊れてしまいます。
今回紹介する特許は、まさにその「曲げても壊れにくいディスプレイ」を実現するための技術です。
ポイントは、フレキシブルディスプレイそのものだけではありません。ヒンジ、可動フラップ、金属バックプレート、溝構造など、ディスプレイの裏側にある機械設計が主役です。
折りたたみデバイスの本当の難しさは、ディスプレイルを曲げることではなく、「自然に、繰り返し、安全に曲げること」にあります。

この記事では、Appleの折りたたみデバイスに関する特許 US12663837B2 を、図面を中心に分かりやすく読み解きます。

発明の概要

特許番号:US12663837B2
タイトル:Electronic Devices With Flexible Displays And Hinges
発明者:Jiang Ai, Mitchell A. Heschke, Soyoung Kim, Stephen R. McClure
出願人:Apple Inc.
出願日:2022/7/7
公開日:2026/6/23
特許の詳細については US12663837B2 を参照してください。

この特許が扱うのは、折りたたみ可能な筐体にフレキシブルディスプレイを搭載したデバイスです。
ディスプレイは、折り曲げ軸をまたぐように配置され、筐体の左右部分が回転することで、開いた状態と折りたたんだ状態を切り替えます。
この発明の要点は、単に「曲がる画面を使う」ということではありません。重要なのは、曲げたときにディスプレイが小さすぎる半径で折れ曲がらないようにすることです。ディスプレイを保護するために、曲げ部において所定の最小曲げ半径 R を維持する構造が説明されています。さらに、折りたたみ時には可動フラップが退避して、ディスプレイの曲げ部に空間を作る構成も示されています。
この記事の結論を先に言うと、この特許は「折りたたみ画面の見た目」ではなく、「折りたたみ画面を成立させる裏側の機械構造」に価値があります。とくに、ヒンジ機構、可動フラップ、金属バックプレートのスロット構造は、折りたたみデバイスの耐久性や薄型化に直結する技術です。
この記事で分かることは、折りたたみデバイスでなぜヒンジ設計が重要なのか、フレキシブルディスプレイをどのように保護するのか、そしてAppleがどのような方向で折りたたみデバイスの構造を検討しているのか、という点です。

折りたたみデバイスの全体像

Fig.1 は、発明の全体像を示す斜視図です。電子機器(10)は、筐体(12)にディスプレイ(14)を搭載し、ヒンジ(20)によって折り曲げ軸(22)の周りで曲がる構造になっています。ディスプレイ(14)は、左右の領域(14A, 14C)と、その間の柔軟な中央領域(14B)を含む構成として説明されています。中央領域(14B)が折り曲げ軸(22)に沿って曲がることで、デバイス全体を折りたたむことができます。
折りたたみ式デバイスでは、ディスプレイだけが柔らかければよいわけではありません。筐体(12)、ヒンジ(20)、折り曲げ軸(22)、ディスプレイ(14)の柔軟領域が、すべて同じ動作を前提に設計されている必要があります。つまり、画面と筐体が別々に動くのではなく、ひとつの機械システムとして連動することが重要です。
従来の硬いディスプレイでは、表示面は平らな板として扱えば十分でした。しかし、折りたたみ式では、画面そのものが構造部品の一部のように振る舞います。画面を支えながら、必要な部分だけを曲げ、曲げすぎないように制御する必要があります。

(正確な図面は、US12663837B2 をご参照ください。)

折りたたみ時に必要な「曲げ半径R」

Fig.7 は、フレキシブルディスプレイ(14)が、開いた状態(14-1)と折りたたまれた状態(14-2)をとる様子を示す断面図です。折りたたみ時には、ディスプレイ(14)の左右部分が 方向50 に向かって近づきます。このとき、対向する表示面の間隔は D で示されます。
ここで注目すべきなのが、曲げ部の最小曲げ半径 R です。フレキシブルディスプレイは柔らかいとはいえ、無限に小さく折れるわけではありません。内部には表示層、タッチセンサ層、配線、接着層、保護層などが積層されています。曲げ半径が小さすぎると、金属配線のクラック、表示層の損傷、接着層の剥離などが起きる可能性があります。
この特許では、ディスプレイ(14)が折りたたまれるときに、曲げ部が一定以上の 半径R を維持するようにしています。これは、紙を折るように画面を鋭角に折るのではなく、ゆるやかなカーブを作って曲げるという考え方です。折りたたみデバイスの耐久性は、この R をどれだけ安定して保てるかに大きく左右されます。「曲がる画面」を使うなら、曲げ半径の管理は避けて通れない技術課題です。

(正確な図面は、US12663837B2 をご参照ください。)

可動フラップが退避して曲げ部の空間を作る

Fig.10 は、Fig.8 および Fig.9 で説明される構造の延長として、筐体(12)が完全に折りたたまれた状態を示しています。筐体(12)には、平面支持部材(12P)と、可動フラップ(12F)が設けられています。開いた状態では、フラップ(12F)はディスプレイ(14)を下から支え、画面を平坦に保ちます。一方、折りたたみ時には、フラップ(12F)が退避し、ディスプレイ(14)の曲げ部に必要な空間を作ります。つまり、開いたときのフラップ(12F)は、ディスプレイ(14)を支える床のような存在です。しかし、折りたたむときには、その床がそのまま残っていると、ディスプレイ(14)の曲げ部が圧迫されてしまいます。そこでフラップ(12F)を回動・退避させ、曲げ半径 R を確保します。
従来の発想では、ヒンジは左右の筐体をつなぐ部品として理解されがちです。しかし、この特許では、ヒンジ周辺の構造がディスプレイの曲がり方そのものを制御しています。つまり、ヒンジは単なる関節ではなく、画面保護機構でもあります。
このような可動フラップの考え方は、折りたたみデバイスの「折り目問題」に対する一つの回答といえます。折り目部分に空間を確保しつつ、開いたときには平坦に支える。この二つの要求は本来矛盾しますが、可動部材を使うことで両立させようとしている点に技術的意義があります。

(正確な図面は、US12663837B2 をご参照ください。)

補正前後の違い

Fig.52 は、フレキシブルディスプレイ(14)の層構造を示す断面図です。ディスプレイ(14)には、背面側のバックプレート(14-1)、接着層(14-2)、有機EL表示層に相当する表示層(14-3)、接着層(14-4)、タッチセンサ(14-5)、接着層(14-6)、偏光板・機能層(14-7)などが含まれます。バックプレート(14-1)は、ディスプレイを支え、へこみや衝撃から守る役割を持ちます。

Fig.53 では、バックプレート(14-1)の曲げ領域(300)に、細長い溝(304)が設けられています。この溝(304)は折り曲げ軸(22)に沿って延び、バックプレート(14-1)の局所的な剛性を下げるための構造です。必要に応じて、溝(304)には柔軟材料(306)や追加材料(308)を配置することも説明されています。
Fig.54 は、この溝(304)を上から見た図です。
特許の請求項1では、フレキシブルディスプレイの背面に金属バックプレートがあり、その第3金属部分に折り曲げ軸と重なるスロットが設けられ、その部分が第1・第2金属部分より柔軟であることが記載されています。つまり、硬さと柔らかさを使い分ける構造となっています。ディスプレイ全体を柔らかくしすぎると、押したときにへこみやすく、製品としての剛性感が失われます。しかし、全体を硬くすると折り曲げられません。そこで、通常部分は金属バックプレートでしっかり支え、曲げ領域(300)だけに溝(304)を設けて柔軟性を高めるわけです。
Fig.52〜54 は、構造材料として非常に合理的な設計であり、権利範囲の中心技術を視覚化した図といえます。

(正確な図面は US12663837B2 をご参照ください。)

他の図面の説明

(図面は US12663837B2 をご参照ください。)

Fig.2 は、制御回路(16)と入出力装置(18)を含む電子機器(10)のブロック図です。

Fig.3 は、ディスプレイ(14)が外側を向くように電子機器(10)を折りたたむ例です。いわゆる外折り型の構成で、折りたたんだ状態でも表示面が外部に露出します。

Fig.4 は、ディスプレイ(14)が内側を向くように折りたたむ例です。画面を内側に保護できる一方、内側の曲げ半径をどう確保するかが課題になります。

Fig.5 は、ディスプレイ層(24)の中央部(24B)が曲がり、外側部分(24A, 24C)が左右に位置する構成を示します。曲がる部分と比較的平坦な部分を分けて設計する考え方が分かります。

Fig.6 は、ディスプレイ(14)が 最小曲げ半径R を維持した状態で曲がる様子を示します。ディスプレイを壊さないための基本概念を説明する図です。

Fig.8 は、開いた状態で筐体(12)の平面部(12P)とフラップ(12F)がディスプレイ(14)を支える構成を示します。

Fig.9 は、折りたたみ途中でフラップ(12F)が 方向56 に退避し、曲げ部に空間を作る様子を示します。

Fig.11 は、フラップ(12F)が主フラップとフラップ延長部に分かれる二段構造を示します。より細かく曲げ部の空間を制御するための構成です。

Fig.12 は、フラップ位置決め構造(66)が、フラップ先端(60)を案内しながらフラップ(12F)を適切に退避させる構造を示します。

Fig.1318 は、筐体構造(12-1, 12-2)を接続するための各種リンク機構です。スライド、歯車、ピン・スロット、複数ヒンジなど、折りたたみ動作を実現する機械要素のバリエーションが示されています。

Fig.1922 は、歯車(80L, 80R)とヘリカルギア(82)を使って左右の筐体(12L, 12R)の動きを同期させる構造です。ピン(90L, 90R)とスロット(92L, 92R)により、フラップ(12F)の退避も連動します。

Fig.2326 は、ギア・ラック機構を用いて、左右の筐体部分(12L, 12R)の間隔を維持しながら折りたたむ構成です。Fig.26 では、折りたたまれたディスプレイ(14)が所定の 曲げ半径R を保つ様子が示されます。

Fig.2732 は、別のギア・ラック構造を用いたヒンジ構成です。部材(120L, 120R)、ギア(122L, 122R), スライダ(128)などにより、折りたたみ時の筐体間隔を管理します。

Fig.3335 は、可動フラップを備えた筐体の組立構造です。上部モジュール(140)、下部モジュール(142)、ヒンジモジュール(130)などから、製品内部の組立イメージが分かります。

Fig.3639 は、フレキシブルディスプレイ(14)を平坦に保つためのバイアス構造(160)を示します。スプリングやローラーなどを使い、ディスプレイを外側に引っ張ってたるみを抑える考え方です。

Fig.40 は、フレキシブルディスプレイの端部を保護するレール構造を示します。表示面の端部保護や異物侵入の抑制に関係する構造です。

Fig.41 は、磁石(170を)用いてディスプレイ(14)を所望の位置に保持する構成です。磁力によって平坦性や追従性を高める発想です。

Fig.42 は、表示層に中間層(141)を設け、衝撃によるへこみを抑える構成です。柔らかい画面を日常使用に耐えさせるための補強技術です。

Fig.43、44 は、丸みのあるヒンジ構造によって、フレキシブルディスプレイ(14)を外側に露出させたまま折りたたむ構成です。外折り型デバイスへの応用が想定できます。

Fig.45、46 は、左右の筐体(12L, 12R)の間をフレキシブルプリント回路(182)で接続する構成です。折りたたみ動作と電気信号の接続を両立するための図です。

Fig.4749 は、折りたたみ状態に応じて突出・退避するヒンジ部(200)を示します。折りたたみ時にディスプレイ(14)を支える構造として機能します。

Fig.50、51 は、左右の筐体の動きを同期させる歯車構造の例です。ヘリカルギアや複数の平歯車により、左右対称の折りたたみ動作を実現します。

Fig.55 は、バックプレート(14-1)の曲げ領域(300)に形成する溝や凹部(304)の別パターンを示します。直線溝だけでなく、点状、スロット状、蛇行状などの柔軟化パターンが考えられます。

Fig.5659 は、二軸リンク機構を持つヒンジの構成です。ロッド(316)と溝(324)により、開閉時のディスプレイ(14)の表面長変化を小さくする狙いがあります。

Fig.60、61 は、ひずみセンサ(324)とアクチュエータ(322, 328)を使って、柔軟層(330)の横方向移動を動的に調整する構成です。画面の膨らみを能動的に抑える発想です。

Fig.62、63 は、圧縮ばね(336)を用いてディスプレイ(14)を外側に引っ張り、平坦に保つ構成です。開いたときのたるみ防止に関係します。

Fig.64、65 は、磁石(350, 352)を用いてディスプレイ層(330)を外側に引き、平坦化する構成です。非接触的な力を利用する点が特徴です。

Fig.66、67 は、ばね(360)を用いてディスプレイ層(330)を外側に引く構成です。機械的なバイアス力で表示面の膨らみを抑えます。

Fig.68A、68B は、圧力感応接着剤(372)が特定方向に伸びることで、折りたたみ時の層間応力を緩和する構成です。接着層そのものをストレス逃がしに使う発想です。

Fig.69 は、一方向歯(384)により、折り曲げ領域のたるみを除去してディスプレイ(14)を引き締める構成です。折りたたみ動作を利用して画面を整える仕組みです。

Fig.70 は、フォーム部材(386)でディスプレイ(14)の端部を外側へ引く構成です。柔らかい材料を使った平坦化機構です。

Fig.71 は、コイルばね(390)によりフラップ(12F)を回転方向(392)に付勢し、ディスプレイ(14)の膨らみを抑える構成です。

Fig.72 は、クリップばね(396)によりディスプレイ(14)を筐体(12)内に保持しつつ、必要に応じてスライドを許容する構成です。固定と逃げを両立させる端部保持構造です。

考察

この特許から、折りたたみデバイスの難しさは、ディスプレイメーカーだけで解決できるものではなく、筐体設計、ヒンジ設計、材料設計、接着技術、センサ制御まで含めた総合設計が必要であることがわかります。
中心となるのは、Fig.52〜54 に示される金属バックプレートのスロット構造です。折りたたみ式ディスプレイでは、薄く、軽く、曲がりやすく、それでいて押し込みに強いという相反する要求があります。金属バックプレートに溝やスロットを設ける設計は、この矛盾をかなり現実的に解く方法です。通常部分は剛性を保ち、曲げる部分だけ柔らかくするという要求に応える発想だと思います。
また、Fig.10 の可動フラップも重要な要素です。折りたたみデバイスを開いたときに「中央が沈む」「折り目が目立つ」「触ると違和感がある」とユーザーが感じれば、一気に品質への印象を下げます。可動フラップは、開いた状態ではディスプレイをしっかり支え、閉じるときだけ逃がす構造であり、実用的なアプローチです。

この特許から、Appleが、折りたたみデバイスの課題をかなり具体的に分解して解決しようとする姿勢が読み取れます。

(上記は筆者の個人的な意見です。)

まとめ

  • この特許は、フレキシブルディスプレイを備えた折りたたみ式デバイスに関する技術です。
  • 重要なポイントは、ヒンジ、可動フラップ、最小曲げ半径、金属バックプレートのスロット構造によるディスプレイの保護です。
  • 曲げ部の空間を作るためにフラップが退避する特徴的な構造が示されています。
  • バックプレートの曲げ領域に溝を設け、硬さと曲げやすさを両立する技術が示されています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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