Apple Watchのデジタルクラウンを再定義:レーザー干渉計で回転・押し込み・傾けを同時検知する特許技術 (US12554224B2)

Apple特許

スマートウォッチの利便性を決定づける要素の一つに、小さな筐体でいかに直感的な操作を実現するかという課題があります。Apple Watchにおいてその中心を担ってきたのが「デジタルクラウン(竜頭)」です。しかし、従来の物理的なデジタルクラウンには、原理的な問題がありました。それは、回転を検知するエンコーダーや、押し込みを検知するドームスイッチなど、入力の種類ごとに異なる物理パーツを詰め込む必要があるため、内部スペースが圧迫されること、また、可動部の隙間から水や埃が侵入するリスクが伴うということです。
Appleが取得した特許「US 12554224 B2」は、検出の原理を変えることでこうした物理的な制約を解消する可能性を秘めています。それは、ウォッチクラウンの内部に、レーザーを用いた光干渉を利用して様々な物理的な動きを検知する機構を組み込むというものです。

この記事では、Appleが実用化を目指しているこの次世代インターフェースの仕組みを「US125542241B2」の内容からわかりやすく解説します。

(この記事にない図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

発明の概要

この発明の核心は、電子時計のウォッチクラウン(竜頭)にレーザーベースのセンシングシステムを組み込んだことにあります 。具体的には、筐体から外に飛び出しているノブと、内部で繋がっている「ローター」と呼ばれる部品で構成される入力システムです。

ユーザーがクラウンを回したり、押し込んだり、あるいは上下左右に傾けたりすると、連動して内部のローターが動きます 。このローターに対し、デバイス内部に固定された「レーザーモジュール」からコヒーレントなレーザー光を照射します 。ローターの表面で反射して戻ってきた光は、発射された光と混ざり合い、「自己混合干渉(Self-mixing interferometry)」という現象を引き起こします。この干渉のパターンを解析することで、クラウンがどの方向に、どれくらいの速さで、どれだけの距離動いたのかを精密に特定できるのです。

発明のポイント

Fig.2A:基本構造

Fig.2A は、デバイスのクラウンの部分の断面図です。ここでは、時計の側壁(202)にある貫通孔(203)を通り、外部のノブ(208)と内部のローター(211)を繋ぐシャフトアセンブリが描かれています 。注目すべきは、ローター(211)の端面(222)に向かって配置されたレーザー検知ユニット(220)です 。ここからレーザービーム(223)が発射されます。
従来の技術では、回転には「光学エンコーダー」、押し込みには「ドームスイッチ」という別々の部品が必要でしたが、この特許ではレーザービーム(223)一本で、その両方の動きを検知可能です。
(Fig.2Aの正確な図面は、US12554224B からご参照ください。)

Fig.2B は、Fig.2A に対してユーザーがノブ(208)に対して半径方向の力、つまり「傾ける」動作(227)を加えた時の状態です。この時、クラウンは支持部材(232)を支点(229)として、振り子のようにピボット運動します 。これにより、内部のローター(211)は弧を描くように移動し、レーザービームとの角度や距離が変化します 。この微細な変化をレーザー検知ユニット(220)が読み取ることで、「クラウンをジョイスティックのように使う」操作が可能になります。(図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

Fig.3, Fig.4:レーザービームによる検知ベクトル

Fig.3は、1本のビーム(310)を用いた際のベクトル成分(314, 316)の説明図です。ビームを斜めに当てることで、回転成分(316)と押し込み成分(314)の両方を1つのセンサーで拾う理論的な配置を示しています。(図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

Fig.4は、2本のレーザービームによる入力の判別 2つのレーザー(310, 329)を異なる半径距離に照射する構成です。これは、回転と傾け、あるいは押し込みといった複雑な動きが同時に起きた際、1本のビームだけでは情報の「曖昧さ」が生じることに対する構成です。例えば、1本のビームからの情報だけでは、回転による移動量と、ピボットによる移動量が同じに見えてしまう場合があります。しかし、2本のビームが異なる半径距離(336, 332)や異なる角度で照射されていれば、それぞれのビームへの影響に差が出るため、処理システムはクラウンの動きを「回転」によるものと正確に判断できるのです。
(正確な図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

Fig.8:光学ユニットの心臓部

Fig.8 は、レーザーモジュールの詳細図です。基板(803)上に2つのレーザー光源(802, 804)が配置され、その上に、ビーム誘導構造(810)(いわゆるレンズやプリズムのような光学素子)が作られています。この構造(810)が、発射された光を適切な経路(812, 814)へ曲げる役割を果たします 。このようにユニット化されることで、非常にコンパクトなスペースに多機能なセンサーを収めることができます。
(正確な図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

技術的意義と応用例

この技術の最大の意義は、「部品の統合による省スペース化」と「信頼性の向上」にあります 。物理的なスイッチを減らせるため、摩耗による故障の原因となる部品の点数を減らすことができ、空いたスペースには大きなバッテリーを搭載できます。

独自の応用例として、例えば「竜頭をなぞる速度で、画面上のUIが慣性を持ってスクロールする」といった、従来の物理スイッチでは不可能だった超高精度な触覚フィードバック(ハプティクス)との連携が考えられます。また、竜頭を押し込む深さによって、デジタル楽器の音色を変えるといった感圧的な使い方も面白いかもしれません。

図面の説明

(実際の図面は、US12554224B2 からご参照ください。)

FIG. 1A:デバイスの全体外観(前面・側面)
スマートウォッチの外観図です。クラウン(竜頭、112)に対する回転(115)、押し込み(117)、および傾け(トグル)操作(119, 121)の移動方向が示されています。

FIG. 1B:デバイスの背面外観
デバイスの背面図です。心拍数などを測定するための生体センサー用ウィンドウ(120, 122)や電極(124, 126)の配置が確認できます。

FIG. 2C:並進(押し込み)入力時の挙動
竜頭を軸方向に押し込んだ(231)際の断面図です。ローター(211)がレーザーユニット(220)に対して並進する様子を示しています 。この動きは、回転(または旋回)入力に対するロータの動きとは異なるため、並進運動のパラメータ(例えば、速度、距離、運動方向)を決定することができます。

FIG. 2D:物理スイッチとのハイブリッド構成
回転と傾けはレーザー(251)で検知し、押し込み操作だけは従来のドームスイッチ(252)で行う実施形態の断面図です。

FIG. 5:ローター側面への照射構成
ローターの端面ではなく、外周の側面(504)に2本のビーム(510, 512)を照射して入力を検知するバリエーションです。

FIG. 6A:円錐形ローターの斜視図
ローターの側面を円錐形(604)にした構成です。特定の入力に対してビームの当たる位置が滑るように変化し、検知精度を高めます。

FIG. 6B〜6D:円錐形ローターにおける各入力の挙動
円錐形ローター(602)を用いた際の、静止状態(6B)、ピボット時(6C)、並進時(6D)のビームの変化を比較した断面図です。

FIG. 7:多面・多ビームによる高度検知
4本のビーム(704, 706, 708, 710)をローターの端面と側面に分散して照射し、極めて高い精度で多次元的な入力を検知する構成です。

FIG. 9:独立型光学ユニットの構造
レーザーごとに独立した基板(901, 903)とビーム誘導構造(910, 911)を持つタイプのセンサーユニットの断面図です。

FIG. 10A, Fig. 10B:リストスクロールへの応用例
竜頭の回転(1060)によって、画面上のリスト項目(1061-1064)を上下にスクロールさせるUI操作の例です。

FIG. 11A, Fig. 11B:画像ズームへの応用例
竜頭の回転(1170)の方向や速度に応じて、表示されている写真(1166)を拡大・縮小(1167)させるUI操作の例です。

FIG. 12A, Fig. 12B:状態のトグル(選択)への応用例
質問(1268)に対して竜頭を回転(1270)させることで、「YES/NO」などの選択肢を直接切り替える操作の例です。

FIG. 13:デバイスのシステムブロック図
プロセッサ(1302)、メモリ(1304)、レーザーセンサーを含むセンシングシステム(1324)、ディスプレイ(1308)など、デバイスの内部構成を示しています。

応用可能性

このレーザー検知技術は、単にスマートウォッチを薄くするだけではありません。例えば、「非接触型」の操作感への応用が考えられます。竜頭とセンサーの間を光で情報を伝達し、物理的な接触が不要になれば、竜頭が完全に磁気で浮いているような、究極に滑らかな操作感を持つデバイスが実現するかもしれません。

また、本特許には竜頭のキャップ(209)を介した「バイオメトリックセンサー(580)」、つまり心電図などの測定機能についても触れられています。レーザー検知と電極を統合することで、一つの竜頭が「マウス」であり「ボタン」であり、さらには「医療機器」でもあるという、究極のマルチセンサーへと進化するでしょう。

まとめ

• Apple Watchのウォッチクラウン内部に、レーザーを照射し「光の干渉」を利用してあらゆる動きを検知するユニットを内蔵する画期的な特許技術です。
• 2本のビームや円錐形ローターを用いることで、回転・押し込み・傾けを高精度に識別し、物理部品の大幅な削減を可能にします。
• 将来的に、より大容量のバッテリー搭載や、高精度なハプティクスと連携した全く新しい操作体験の実現が期待されます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 12,554,224 B2
タイトル:Crown for an Electronic Watch
発明者:Richard A. Davis, David D. Dashevsky
出願人:Apple Inc.
出願日:2023/3/24
公開日:2026/2/17
特許の詳細については US12554224B2 を参照してください。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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