Apple Watchで月経周期をより正確にの予測 ―― 心拍数とAIを組み合わせるApple特許(US2026/0306074A1)

Apple特許

スマートウォッチでは、心拍数や睡眠時間など、身体の状態を日常的に記録できるようになっています。こうしたデータを使えば、月経周期の予測も、さらに詳しく行えるようになるかもしれません。

月経周期を予測するうえで難しいのは、周期が必ずしも一定ではないことです。過去の月経開始日から次回の日付を計算しても、実際の周期が変動すると予測がずれてしまいます。

特に、月経開始から排卵までの「卵胞期」は、周期ごとに長さが変わることがあります。そのため、過去の日付だけでは、現在の身体の状態を十分に反映できない場合があります。

今回のAppleの公開特許は、安静時の心拍数に注目しました。心拍数は運動や睡眠だけでなく、月経周期に伴っても変化することがあります。この変化を継続的に分析すれば、排卵時期や次回の月経日を予測する手掛かりになると考えられます。

過去の月経記録と心拍数を組み合わせ、ニューラルネットワークによって排卵時期や月経日を推定する仕組みが提案されています。さらに、予測の確からしさを評価し、適切なタイミングで予測結果を更新する方法も示されています。

この記事では、Appleの公開特許 US2026/0306074A1 から、心拍数を基に月経周期を予測する仕組みを読み解きます。

(詳細な図面は、US2026/0306074A1 からご参照ください。)

特許の概要

特許番号:US 2026/0306074 A1
タイトル:Menstrual Cycle Tracking And Predicition
発明者:hunan Zhang、Carey Y. Zhang、Jihyun Park、Vincent M. Chan、Roxanne B. Brittain、You Ren、Yikai Wang
出願人:Apple Inc.
出願日:2026/6/22
登録日:2026/10/8
特許の詳細については、US2026/0306074A1 を参照してください。

この特許は、過去の月経記録と心拍数の変化を組み合わせ、排卵時期、妊娠可能期間、次回の月経時期を予測する技術です。妊娠可能期間とは、月経周期のうち、妊娠が成立する可能性が比較的高い期間を指します。

基本となるのは、カレンダーに記録された過去の月経データです。ここに心拍センサーから得られる情報を加えることで、実際の身体の変化を予測に反映させます。

予測処理には、ニューラルネットワークを利用する実施形態が示されています。この特許では、時間とともに変化する心拍数と月経周期の関係を分析するために利用します。

なお、予測結果を更新する際には、心拍データが十分に集まっているか、予測の確からしさが高いかなどを確認します。新しい予測が得られたからといって、必ずしもすぐにカレンダーを書き換えるわけではありません。

つまり、この特許のポイントは、心拍数による予測と、予測結果の信頼性に応じた更新を組み合わせている点です。

心拍センサーとカレンダーを組み合わせる予測システム

FIG. 2 は、月経周期を予測するシステムの全体構成を示しています。大きく分けると、月経記録と心拍数を取得する部分、それらのデータを分析する部分、予測結果を更新する部分から構成されています。

まず、カレンダーモジュール(200)には、ユーザーが入力した過去の月経開始日や終了日などが記録されています。この情報から、次回の月経日や妊娠可能期間について、最初の予測を計算します。

一方、心拍センサー(205)は、装着者の心拍数を取得します。測定間隔の例として、5分ごとに心拍数を測定する方法が挙げられています。
ただし、取得した心拍数のすべてを、そのまま予測に利用するわけではありません。運動などによる心拍数の変動を避けるため、身体活動が少ない状態の心拍数に注目して採用しています。

カレンダーの予測情報と心拍数は、前処理モジュール(210)へ送られます。ここでは、異なる種類のデータを整理し、後段の予測モデルが利用できる形式に変換します。
例えば、心拍数を正規化したり、覚醒中と睡眠中の測定値を区別したりします。さらに、心拍データが十分に集まっていない場合には、そのデータを予測に利用しない判断も行います。

前処理されたデータは、排卵推定器(215)へ入力されます。
排卵推定器(215)は、カレンダー情報と心拍データを組み合わせ、将来のどの日が妊娠可能期間に含まれる可能性が高いかを推定します。その結果は、妊娠可能期間更新モジュール(225)へ送られます。
また、排卵推定器(215)の出力は、月経推定器(220)にも渡されます。月経推定器(220)は、排卵の推定結果と前処理されたデータを利用して、次の月経時期を推定します。
推定された月経日は、月経予測更新モジュール(230)で更新の要否が判断されます。更新が行われると、その情報はカレンダーモジュール(200)に戻され、表示や次回以降の予測に利用されます。

このように、FIG. 2 のシステムでは、過去の周期情報から初期予測を作り、心拍数による分析結果を加え、必要に応じて予測を更新するという処理が行われます。

なお、図には詳しく描かれていませんが、明細書では、排卵推定器(215)と月経推定器(220)にニューラルネットワークを利用する実施形態が示されています。
例えば、LSTMと全結合ニューラルネットワークを組み合わせます。LSTMは、過去から現在までの情報を扱うのに適したニューラルネットワークで、心拍数のような時系列データの分析に利用できます。

(正確な図面は、US2026/0306074A1 をご参照ください。)

心拍数の上昇パターンから排卵時期を推定する

FIG. 1 は、月経周期に伴う安静時心拍数の変化を示したグラフです。縦軸は心拍数、横軸は排卵日を基準とした日数で、中央の0が排卵日に相当します。

グラフの心拍数(100)は、周期の前半では比較的低い値を示しています。しかし、排卵日の約8日前に相当する変化点(110)付近から、心拍数が上昇し始めます。

その後、排卵日の約2日前に相当する変化点(115)では、心拍数の上昇速度が変化します。心拍数自体は上昇を続けていますが、グラフの傾きは小さくなっています。

ここで重要なのは、心拍数がいつ上がり始め、その上昇の速さがどのように変化するかという時間的な特徴です。
明細書では、排卵前の卵胞期における心拍数の上昇量として、1分間当たり約1.5~2拍という例が示されています。こうした小さな変化は、単発の測定値だけでは判断しにくいものです。しかし、長期間にわたって安静時心拍数を測定し、その変化の傾向を分析すれば、排卵時期を推定する手掛かりになります。

排卵後の黄体期にも、心拍数は上昇する傾向があります。そして、黄体期の終わりが近づくと心拍数が低下し始めます。変化点(120)は、この低下への転換を表しています。

つまり、心拍数の上昇開始や傾きの変化は排卵時期を、排卵後の心拍数の低下は次回の月経時期を推定するための情報になります。

また、予測モデルに入力する心拍数は、その日の測定値のうち低い方から10%に含まれる心拍数を、基礎的な安静時心拍数として扱うようにしています。覚醒中と睡眠中のデータを別々に集計することもできます。

これらの測定値は、FIG. 2 の前処理モジュール(210)で整理され、排卵推定器(215)の入力となります。

(正確な図面は、US2026/0306074A1 をご参照ください。)

心拍データが十分なときだけ予測を更新する

FIG. 4 は、心拍数を利用して排卵時期や月経日を推定し、予測情報を更新する処理手順を示したフローチャートです。

ステップ 405 では、初期予測の取得を行います。これはFIG. 2のカレンダーモジュール(200)などから得られる、過去の月経記録に基づく予測です。

ステップ 410 では、心拍データの取得を行います。ここで、心拍センサーから得られた測定値が、予測に利用するデータとして準備されます。

ステップ 415 では、心拍データの十分性判定(415)です。
心拍データが必要な日数分採れているかを確認します。
例えば、過去45日間のうち、所定量の心拍データを取得できた日が23日以上ある場合のみ、心拍数に基づく予測更新を行います。

ステップ 420 では、排卵時期の推定を行います。
この処理では、FIG. 2 の排卵推定器(215)が、過去の月経記録と心拍データを利用します。排卵が起こる可能性の高い日を推定し、場合によっては複数日の範囲として出力します。

ステップ 425 では月経時期の推定が行われ、ステップ 430 では妊娠可能期間の更新、ステップ 435 では月経予測の更新が行われます。

(正確な図面は、US2026/0306074A1 をご参照ください。)

予測の確からしさをカレンダーの濃淡で示す

FIG. 3 は、予測された月経日を表示するカレンダー画面(300)の例です。中央付近には、次の月経が12月18日頃に始まる可能性が高いことを知らせるメッセージが表示されています。

カレンダーでは、現在の日付(305)が黒い丸で強調されています。また、月経が予測される複数の日には、異なる濃さの網掛けが施されています。

例えば、12月16日に付された表示(310)は、月経が起こる可能性が比較的低い日を示しています。一方、12月18日に付された表示(315)は、月経が起こる可能性が比較的高い日を示しています。

この表示は、FIG. 2 の月経推定器(220)によって得られた予測結果を、カレンダーに反映したものです。

さらに、FIG. 4 の処理によって予測が更新されると、表示される日付や、その確からしさを示す濃淡も変更できます。

なお、FIG. 3 では月経日の予測を表示していますが、明細書では、同様の方法を妊娠可能期間の表示にも利用できると説明されています。

ここまでの4つの図面をつなげると、この発明の仕組みが見えてきます。

FIG. 2 のシステムが月経記録と心拍数を組み合わせ、FIG. 1 に示された心拍数の変化パターンを予測に利用します。そして、FIG. 4 の処理によってデータの十分性や更新条件を確認し、最後に FIG. 3 のカレンダーで予測結果とその確からしさを表示します。

(正確な図面は、US2026/0306074A1 をご参照ください。)

その他の図面

(図面は、US2026/0306074A1 をご参照ください。)

FIG. 5:スマートウォッチの外観
ウェアラブル端末(500)の外観を示した図です。筐体(510)、表示部(515)、ストラップ(520)、回転式クラウン(525)、ボタン(530)などが示されています。

FIG. 6:ウェアラブル端末の電子回路構成
電子機器(600)の内部構成を示した図です。処理装置(602)、メモリ(604)、表示部(608)、入力装置(610)、バッテリー(614)、心拍センサー(616)などを備えています。

考察

心拍数は月経周期だけで変化するわけではありません。運動、睡眠、ストレス、体調などの影響を受けるため、月経周期に由来する小さな変化を、それ以外の要因による変化と区別することが必要です。安静時心拍数を利用したり、複数日の測定結果を組み合わせたりする構成は、こうした影響を抑えようとするものと考えられます。

また、予測結果を頻繁に変更すれば、最新の情報を反映しやすくなる反面、ユーザーにとっては予定を立てにくくなる可能性があります。逆に更新を制限しすぎれば、身体の変化が予測に反映されにくくなります。この特許で示された確信度や更新回数による制御は、予測精度だけでなく、実際の使いやすさを考慮した仕組みです。

実装上は、心拍データの欠損や個人差への対応も重要になると考えられます。心拍数の変化が明確な人とそうでない人では、同じ予測モデルでも結果の安定性が異なる可能性があります。十分なデータが得られない場合に心拍数を利用しない仕組みは、信頼性の低い予測を避けるための措置であると考えられます。

今後、こうした技術がウェアラブル端末に採用されれば、月経開始日の予測だけでなく、日常の生体情報を利用した個人ごとの健康管理にも応用が広がる可能性があります。

(上記は筆者の個人的な意見です。)

まとめ

  • Appleの公開特許 US 2026/0306074 A1 は、心拍数と過去の月経記録を組み合わせ、排卵時期や次回の月経日を予測する技術です。
  • 安静時心拍数の変化パターンをニューラルネットワークなどで分析し、妊娠可能期間や月経時期の予測に利用します。
  • 心拍データの十分性や予測の確からしさを確認し、必要な場合に予測を更新することで、予測の信頼性と表示情報の安定性を両立させようとしています。
  • 将来的には、スマートウォッチなどによる継続的な健康管理を、より個人の身体の変化に応じたものへ発展させる可能性があります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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