折りたたみスマホのガラスはここまで進化! ―― 薄さと耐クラック性を両立するApple特許(US2026/0082496A1)

Apple特許

折りたたみスマートフォンを実現する上で重要な部分は、折りたたみ動作を行うヒンジですが、画面を覆うガラスも重要です。ガラスは、スマートフォンが折りたたまれるたびに、画面と一緒に何度も曲げられるからです。

ガラスは、画面のカバー層としての役割から、高い強度が求められますが、厚くすることで強度を上げようとすると曲げにくくなります。逆に、ガラスを薄くすると、物体が当たったときに内部にクラックが入って破損しやすくなります。

つまり、折りたたみスマートフォンのガラスは「曲がりやすさ」と「壊れにくさ」を両立する必要があるのです。

今回のApple の公開特許は、「曲がりやすさ」と「壊れにくさ」という相反する課題に対して、薄いけれどもクラックが始まりにくいガラスを採用し、ヒンジがある部分だけ薄くして曲げやすくするという解決策を示しています。

この記事では、Appleの公開特許 US 2026/0082496 A1 を、図面を中心に読み解きながら、「曲がるのに割れにくいガラス」がどのように実現されようとしているのかを解説します。

(詳細な図面は、US2026/0082496A1 からご参照ください。)

特許の概要

特許番号:US 2026/0082496 A1
タイトル:Electronic Devices With Crack-Resistant Cover Layers
発明者:Christopher D. Jones
出願人:Apple Inc.
出願日:2025/6/12
登録日:2026/3/19
特許の詳細については、US2026/0082496A1 を参照してください。

この公開特許は、折りたたみディスプレイに使うガラスを、曲がる部分は薄くして、曲がらない部分はクラック(亀裂)に強くする技術です。

鋭利な物体がガラスに中央亀裂を引き起こして破損してしまうのを防ぐために、ガラスの亀裂発生荷重を 10kgf以上 にすることが示されています。さらに、イオン交換プロセスによって、ガラス表面付近に圧縮応力領域を作ることで、破損しにくくすることも示されています。

従来型のアルミノケイ酸ガラスでは、亀裂発生荷重が 10kgf 未満でしたが、今回の特許では、ホウケイ酸ガラス、ホウアルミノケイ酸ガラスなどポリマー鎖の密度が低いガラスが使われます。このようなガラスは、鋭利な物体が接触する際に、ポリマー鎖のネットワークが圧縮され、接触のエネルギーが吸収されることで、中央亀裂の形成が抑制されます。これにより、亀裂発生荷重を大きくして、亀裂が発生しないようにすることができます。

また、ガラスが曲げられる部分では、折り曲げ領域の厚さを200 µm以下にしたり、中央に溝を形成して局所的に薄くしたりして、曲げに強くしています。

ガラスが折り曲げられる場所

FIG.2 は、折りたたみ型のスマートフォン、タブレットコンピュータを示しています。
ディスプレイ(14)を持ったハウジング(12)は、折曲げ軸(28)を中心とした開閉がヒンジ(30)によって行われます。

ヒンジ(30)の軸は折曲げ軸(28)に一致しており、ハウジング(12)の左右部分がこの軸を中心に回転します。それに伴い、ハウジングの上面に配置されたディスプレイ(14)も曲がり、カバー層であるガラスも同じように曲がります。

(正確な図面は、US2026/0082496A1 をご参照ください。)

ベアガラスでもクラックに強くする

FIG. 5 は、折りたたみスマートフォンを横から見た断面図です。

ディスプレイパネル(14P)の上に接着層(58)があり、その上をカバー層(14CG)が覆っています。さらにそのカバー層にはガラス層(52)があり、中央には折り曲げ軸(28)が通っています。60 はディスプレイの左側部分、62 は折り曲げ領域、64 はディスプレイの右側部分です。

この図の構成では、ガラス(52)に保護ポリマー層がなく、ガラスの表面(40)がそのまま外に露出しています。つまり、ガラスの外側に保護層がなく、直接ユーザーの指や物体が触れるベアガラス構造になっています。

通常のアルミノケイ酸ガラスなどは、亀裂発生荷重が 10kgf 未満なので、保護ポリマー層がないと、鋭利な物体が薄いガラスに接触した場合、亀裂を発生しやすくなります。しかし、ホウケイ酸ガラス、ホウアルミノケイ酸ガラス、アルカリホウアルミノケイ酸ガラスなど、ポリマー鎖の密度が低いガラスを使用することで、亀裂発生荷重を大きくすることが可能になるとしています。このようなガラスは、鋭利な物体が接触する際に、ポリマー鎖のネットワークが圧縮され、接触のエネルギーが吸収されることで、中央亀裂の形成が抑制されます。これにより、亀裂発生荷重が大きくなり、クラックを発生しにくくすることができます。

また、イオン交換プロセスによって、ガラス表面付近に圧縮応力領域(82)を形成することで、より優れた耐クラック性能、つまり亀裂が発生しにくくなることが示されています。

(正確な図面は、US2026/0082496A1 をご参照ください。)

ガラスの曲がる部分だけ薄くする

FIG.6 は、折り曲げ領域(62)付近のガラス層(52)の断面図が示されています。

折曲げ軸(28)付近に(72)を形成して、その部分のガラス層を薄くすることで、曲げやすい構造になっています。
薄い部分の厚さ T1 は 50µm~200µm前後、それ以外の部分の厚さ T2 は 200µm~400µm前後と示されています。

溝(72)の左右端は、テーパー状の縁部(74)が形成されています。これは、ガラス層(52)が薄い部分から厚い部分に急に変化すると、そこでの光の屈折が変化して、ディスプレイパネルの画像が歪むことと、ガラスを曲げたときの応力集中を防ぐためです。

透明ポリマー(50)は溝(72)に充填することも、ガラスの下面に配置することもできます。このポリマーは内側を平坦化してディスプレイパネルを取り付けやすくするとともに、ガラスとの屈折率差を小さくする効果があります。

この構造によれば、曲げやすさと剛性・耐久性を場所ごとに最適化できるようになります。

(正確な図面は、US2026/0082496A1 をご参照ください。)

クラックが発生する力を測定する

FIG.7 は、ビッカース硬さ試験によって、ガラス層(52)の亀裂発生荷重を決定する方法を示しています。

ガラス層(52)の表面に先端の鋭いビッカースVickers圧子(70)を押し付け、力を変化させます。図に示すように、F1 と F2 という2つの荷重を加え、F2 は F1 より大きな荷重で押し付けます。

F1 はガラスの亀裂発生荷重(亀裂閾値)であり、F2 はそれよりも大きな荷重を設定します。ビッカース圧子(70)に加える力 F2 が 亀裂閾値 F1 を超えて増加すると、ガラス(52)に傷(84)が形成され、中央亀裂(86)が発生します。
例えば 亀裂発生荷重 F1 が10 kgfであれば、それより大きな F2 を加えることで傷(84)や中央亀裂(86)が形成されます。

非架橋酸素含有量が多いソーダ石灰ガラスなどのガラス組成物は、充填密度が高くなる可能性があり、そのため鋭利な接触に対してせん断変形を起こしやすい傾向があります。この種のせん断変形は、高い残留応力と、中央亀裂や放射状亀裂などの表面下損傷を引き起こします。このようなガラスでは、亀裂を生じさせるのに必要な荷重は比較的低い傾向がありますが、一方、非架橋酸素含有量が少ないガラス組成物は、鋭利な接触に対して体積減少を伴う緻密化によって変形する傾向があります。

明細書には、ガラス(52)は、アルカリ土類酸化物を含まないアルカリホウアルミノケイ酸ガラスなどの耐損傷性ガラスが示され、必要に応じて、10 kgfを超える亀裂発生荷重を示す他のガラス組成物を使用することも示されています。

(正確な図面は、US2026/0082496A1 をご参照ください。)

その他の図面

(図面は、US2026/0082496A1 をご参照ください。)

FIG.1:電子機器の基本構成
電子機器(10)の中に制御回路(20)、通信回路(22)、入出力装置(24)、ディスプレイ(14)、センサー(16)などが配置される一般的な構成を示しています。この発明が特定の一種類の端末だけに限定されないことを理解するための図です。

FIG.3:折りたたみ端末の断面構造
カバー層(14CG)、表示パネル(14P)、画素(P)、折曲げ軸(28)、ハウジング(12)などの位置関係を示しています。端末が曲がると、カバー層と表示パネルも同じ領域で曲げられることが分かります。

FIG.4:折曲げ部を局所的に薄くする基本構造
カバー層(14CG)の中央に薄肉部(44)を設け、その凹部にポリマー(50)を配置する構造です。外側にはコーティング層(90)を設ける例も示されており、FIG.6 の基本的な構造を示します。

FIG.8:ガラス組成によるクラック開始荷重の違い
ガラス G1 と G2 を比較し、G2 の方が高い亀裂開始荷重 L2 を示す概念図です。ガラス G2 の例としてアルカリホウアルミノケイ酸ガラスなどが示されています。

FIG.9:ガラス組成とイオン交換による耐破壊性の違い
G1、G2、G2′ のヌープスクラッチ試験における破壊力値を比較しています。G2′ は G2 と同じ組成でイオン交換を施したもので、材料組成だけでなく化学強化も耐破壊性に寄与することを示しています。

考察

この特許では、折りたたみディスプレイの重要要素である「曲がる」部分について、ガラス層についての問題解決を行っています。

折りたたみ端末では、曲げ性能を優先すればカバー層(ガラス)を薄くしたくなります。しかし、薄くなれば外部からの局所的な衝撃に不利になります。一方、耐久性を優先して厚くすれば、曲げ半径を小さくすることが難しくなります。

今回の構成は、そのトレードオフを3つに分解して解決しようとしています。
第1に、ガラス組成を工夫して、薄くてもクラックそのものが始まりにくくすること。第2に、必要に応じてイオン交換により圧縮応力領域を形成すること。第3に、折曲げ部分だけを局所的に薄くして、端末全体としてはガラス厚を必要最小限にすることです。
このように、折りたたみスマートフォンのガラスは、複合的な対策に基づいて強度を確保しているかのうせいがあることがわかります。

従来のスマートフォンでは、ディスプレイの破損防止のために、ガラスの表面に市販の保護ガラスを貼り付けて使用することがあります。
しかし、この発明のように、複合的な対策のバランスの上に成り立っているガラス層に、市販の保護ガラスを貼り付けると、特に折り曲げ部分については、かえって強度を下げることになる可能性が考えられます。
折りたたみスマートフォンに保護ガラスを装着することは難しくなるかもしれません。

(上記は筆者の個人的な意見です。)

まとめ

  • 折りたたみディスプレイでは、ガラスを薄くすると曲げやすくなる一方、局所的な衝撃やクラックへの耐性との両立が課題になります。
  • 今回の特許では、10 kgf 以上の亀裂開始荷重を持つガラスを使い、必要に応じてイオン交換による圧縮応力も利用します。
  • 折曲げ部分だけを薄くする溝と傾斜部を設け、曲げやすさとそれ以外の部分の厚さを両立させる構造が示されています。
  • この技術が製品化されれば、保護ポリマーに頼らず、折りたたみディスプレイの最表面をガラスにするという設計につながる可能性があります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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