Apple Watchの転倒検出技術がここまで進化!新特許でわかる驚きの安全システムとは?(US12361810B2)

Apple特許

Apple Watchが初めて「転倒検出」機能を搭載したのは2018年のことでした。以来、この機能は高齢者の見守りやアスリートの安全管理など、幅広いユーザーの命を守る機能として注目されてきました。

しかし、今回ご紹介する特許 「US12361810B2:Context Aware Fall Detection Using a Mobile Device」 は、その延長線上にとどまらない進化を遂げています。

この記事では、この特許の内容を、図面と共に詳しく解説していきます。

(詳しい図面は、US12361810B2をご参照ください。)

コンテキストを考慮した転倒検出

この特許の最大の特徴は、AIが「文脈(コンテキスト)」を理解して転倒を判断する点にあります。つまり、「転倒らしき動き」を検知するだけでなく、その動きがどんな状況で発生したのかをAIが分析し、誤検知を大幅に減らすのです。

たとえば、自転車走行中の振動や、バスケットボール中の衝突などは大きな加速度を伴いますが、これを「転倒」と誤認してしまうと頻繁にSOS通知が出てしまいます。Appleの新しい転倒検出は、このような場面を文脈ごとに正しく理解することで、必要なときだけ適切に通知を行うように進化しています。

この“文脈認識型”の転倒検出技術は、Apple Watchを単なるセンサー機器から「状況を理解する知的なパートナー」へと進化させる重要なステップなのです。

図面の説明

Fig.4A:転倒時のセンサーデータ
Fig.4Aでは、ユーザーが自転車に乗っている最中に転倒した場合のセンサーデータが示されています。(図面は、US12361810B2をご参照ください。)

横軸は時間(4秒間)を、縦軸は腕に装着されたデバイスの角度変化(オリエンテーション)を表しています。

転倒の直前2秒間はグラフが安定していますが、衝撃を受けた瞬間(時刻0秒付近)に、ごく短い時間で大きな角度変化が発生しています。Appleのシステムは、この変化量が一定のしきい値(θ₁・θ₂)を超えた場合に「転倒」と判断します。

このように、時間軸に沿って詳細にセンサーデータを分析することで、「どの瞬間に」「どれくらいの角度変化が起きたか」を正確に把握できるようになります。従来の単純な加速度検知と比べ、より精密で状況依存的な検出が可能になっている点が特徴です。

Fig.4B:通常走行時のセンサーデータ
Fig.4Bは、自転車走行中に転倒していない場合のセンサーデータを示しています。(図面は、US12361810B2をご参照ください。)

このグラフでは、全体の角度変化が小さく、衝撃のピークも見られません。つまり、路面の振動や段差による揺れでは転倒と判断されず、安定した姿勢と認識されるようになっています。

Appleはこうしたデータをもとに、どの程度の角度変化や加速度が「危険」と判断されるべきかを実験的に調整しており、極めて高い精度で誤検知を防いでいます。
この点は、単なるアルゴリズム設計を超えた、人間の行動データに基づく“行動科学的アプローチ”といえるでしょう。

Fig.7:ハンドル形状とセンサ方向の違い
Fig.7では、ハンドル形状が縦型(アップハンドル)である場合のセンサーの向きが示されています。(図面は、US12361810B2をご参照ください。)

このとき、デバイスのX軸はユーザの腕の方向、Y軸はハンドル方向、Z軸はデバイスの垂直方向を指します。転倒した際には、Y方向とZ方向に強い衝撃が同時に記録されることが特徴です。

一方で、通常走行時にはY方向の振動はあるものの、Z方向は安定しています。Appleのシステムは、この「衝撃の方向と強度の組み合わせ」を解析し、転倒かどうかを判断します。

また、このアルゴリズムはハンドル形状の違いにも対応しており、マウンテンバイクやロードバイクなど、さまざまな自転車タイプでも精度を保てるよう設計されています。

Fig.1〜Fig.3:システム構成と状態遷移(図面は、US12361810B2をご参照ください。)
Fig.1はシステム全体の構成を示した図です。スマートウォッチ(モバイルデバイス102)、サーバ(104)、通信デバイス(106)がネットワーク108で接続され、転倒の検出から通知までが連携して行われます。

Fig.2A・2Bでは、デバイスの装着位置と座標軸の関係が示されています。腕時計型デバイスのx軸・y軸・z軸それぞれの方向が定義され、センサーがどの方向の動きを検知しているかが明確に示されています。

Fig.3では、ユーザーの行動に応じて判定ルールを切り替える「状態遷移」が描かれています。歩行中、自転車走行中、スポーツ中など、活動状態(state 302a〜302c)に応じて異なるアルゴリズムが適用される仕組みです。

Fig.5〜Fig.6B:水平ハンドルでの転倒検出(図面は、US12361810B2をご参照ください。)
Fig.5は、水平ハンドルを持つ自転車におけるセンサー軸の関係を示しています。x軸が腕の方向、y軸がハンドル方向を表します。

Fig.6A・6Bは、それぞれ転倒時と通常走行時の加速度データです。両方向(x・y)で同時に高い衝撃が観測された場合は転倒、どちらか一方のみの場合は通常走行と判定されます。このように、衝撃の「方向性」と「同時性」を組み合わせることで、非常に精度の高い転倒判定を実現しています。

Fig.8〜Fig.9C:通知フローとユーザーインターフェース(図面は、US12361810B2をご参照ください。)
Fig.8は転倒後の通知生成フローです。転倒と推定されたあと、ユーザーが一定時間静止しているかを監視し、必要と判断された場合のみ通知を送信します。

Fig.9A〜9Cでは、Apple Watchの画面上に表示される警告画面が段階的に描かれています。ユーザーが一定時間操作しない場合、自動的にカウントダウンが始まり、そのまま反応がなければ緊急連絡が送信されます。
この「人間の判断を尊重しつつ自動化する」設計は、Appleらしいユーザー体験への配慮が感じられます。

Fig.10〜Fig.11:アルゴリズムとデバイス構成(図面は、US12361810B2をご参照ください。)
Fig.10は転倒検出アルゴリズム全体のフローチャートです。センサーデータの取得から文脈判定、ルール選択、転倒確率の計算、通知生成までの流れが整理されています。

Fig.11はハードウェア構成図で、加速度センサー、ジャイロスコープ、GNSS、心拍センサー、通信モジュールなどの構成が示されています。Apple Watchの内部に、これほど多くの機能が統合されていることがわかります。

発明のポイント:状況を理解するAIが誤検知を減らす

この特許の最大のポイントは、「すべての転倒を同じ条件で判断しない」という考え方にあります。

従来の転倒検出では、一定の加速度や角度変化を超えた場合に転倒と判定していました。しかし、激しい運動や自転車走行中の振動でも同様の値が発生するため、誤検知が避けられませんでした。
本発明では、AIがまずユーザーの行動コンテキストを推定します。
たとえば、

  • 歩行中:一定周期の小さな加速度と安定した姿勢
  • 自転車走行中:連続的な振動と高い移動速度
  • バスケットボール中:高衝撃と方向転換の繰り返し

といった特徴から行動を分類し、それぞれに対応するルールセット(閾値や条件)を切り替えます。さらに、転倒後に一定時間静止しているかどうかも確認し、誤報を防ぎます。

つまり、Appleはセンサーが取得する物理データをAIが「文脈として理解する」仕組みを作り上げたのです。このアプローチにより、転倒検出の精度は飛躍的に向上し、誤検知による不要なSOS通知を大幅に減らすことができます。

応用可能性と今後の展望

この文脈認識型の転倒検出は、ヘルスケア分野だけでなく、スポーツやリハビリ、さらには医療支援分野にも応用が期待されています。

たとえば、リハビリ中の患者の動作モニタリングや、アスリートの姿勢解析に応用すれば、転倒予防だけでなくフォーム改善にも役立ちます。
また、特許では通知先をサーバや他のデバイスにも拡張できる仕組みが示されており、緊急通報システムや医療機関との自動連携も視野に入れています。

さらに、特許の終盤ではプライバシー保護への配慮が明記されており、データの収集・利用にはユーザーの同意を前提とすることが述べられています。Appleが「技術の倫理性」を強く意識していることがうかがえます。

今後は、iPhoneやAirPods、Apple Vision Proなど複数のデバイスのセンサー情報を統合し、より包括的にユーザーの状態をモニタリングする方向へ進化していくと考えられます。

まとめ

  • Appleの新しい転倒検出技術は、活動文脈に応じてAIが判断基準を切り替える仕組みを採用しています。
  • センサーの角度変化や衝撃方向、静止時間などを組み合わせて、実際の転倒かどうかを高精度に判定します。
  • 将来的には、医療・スポーツ・見守りといった幅広い分野への応用が期待されます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 12361810 B2
タイトル:Context Aware Fall Detection Using A Mobile Device
発明者:Sriram VenKateswaran, Parisa Dehleh Hossein Zadeh, Vinay R. Majjigi, Yann Jerome Julien Renard
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/7/15
出願日:2024/3/26
特許の詳細については、US12361810B2を参照してください。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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