Apple Watchが水泳を解析する時代へ! ストロークも呼吸も自動検出(US12295726B2)

IT特許

日々進化を続けるApple Watchは、すでに時計の枠を超えた存在になっています。現在のApple Watchは、心拍数の記録から睡眠トラッキングまで、健康とフィットネスに関する機能を広範にカバーするデバイスですが、さらに水中でのトレーニングにも新たな可能性を開こうとしています。

今回のAppleの特許「US12295726B2」では、Apple Watchのようなウェアラブルデバイスが水泳中の回転動作、ストローク、ターン、呼吸、プールの長さまでも自動的に検出し、ユーザーの泳ぎをデジタルに定量化する革新的な仕組みが提案されています。

この記事では、特許の内容を詳細に解説し、Appleがどのように水泳の測定基準を定義し直そうとしているのかを探っていきます。

水泳における“計測困難”な動作をどう捉えるか?

陸上での歩数や心拍数の測定と異なり、水中ではセンサーが安定してデータを取得することが難しく、特に以下のような課題が存在します。

  • ターン動作(折返し)の検出
  • 呼吸回数のカウント
  • 泳法の分類(クロール、バタフライ、平泳ぎなど)
  • ストローク数と距離の関係性の精度向上
  • プール長の把握(特に屋内などでGPSが使えない場合)

Appleはこれらの課題を解決するため、2つの座標系の変換を軸にしたアルゴリズムを開発しました。

キー技術①:ボディ固定座標系から慣性座標系へ

特許では、まずデバイスのセンサーから得られるデータを「ボディ固定座標系(Fig.4A〜4D)」で受け取り、これを「慣性座標系(Fig.6, 7A〜7D)」へと変換します。
たとえば手首がどう回転しているか(pitch/roll/yaw)を、「身体に対して」ではなく「地球に対して」どう動いたのかという観点に変換して解釈します。

Fig.4:デバイスの向きと回転軸
Fig.4AはApple Watch本体の斜視図で、各軸の方向(X軸=クラウン方向、Y軸=バンド方向、Z軸=ディスプレイ面)を示しています。Fig.4Bは「ボディ固定座標系」でのデバイスの回転方向(pitch, roll, yaw)を示す図です。これらの図は、センサー出力が装置の内部基準座標系でどう表現されるかを視覚化しています。泳法を識別するための重要な基礎情報になります。

Fig.6〜7:ボディ固定座標系から慣性座標系への変換
Fig.6〜7Dでは、Apple Watchのデータを「重力方向」を基準にした慣性座標系へ変換。慣性座標系(外部空間基準)への変換の仕組みを示す図です。デバイスが体の動きに対してどう動いているかを「地球基準」で把握するために必要な変換です。この変換により、「ターンした」「息継ぎした」「同じ方向に回転した」といった意味ある動作の抽出が可能となります。

キー技術②:泳法ごとの“呼吸角度”を捉える

Apple Watchは、ユーザーが呼吸するタイミングも自動検出できます。たとえばフリースタイル(クロール)の場合、息継ぎの際に手が水面から跳ね上がる特徴的な動作が見られます。
Appleの特許では、このときの「手首の角度(ピッチ角)」をリアルタイムでモニタリングし、一定以上の角度変化を検出した際に「呼吸した」と判定します(Fig.14〜15)。
この処理により、ユーザーが手動でカウントせずとも、呼吸回数やフォームの乱れを解析することができます。

Fig.15:呼吸動作に関連するピッチ角の変化
ピッチ角(手首の傾き)を使った呼吸検出方法の図です。泳いでいる間に腕が上がる角度のピークを検出して「呼吸動作」を判断します。Fig.15では、呼吸タイミングが複数回検出されている様子が示されています。ピークの動きが呼吸と一致することを利用し、泳法別に閾値を自動調整する仕組みが記述されています。

キー技術③:回転軌道を使ったストロークカウント

水泳の基本指標となる「ストローク数」。特許ではこれを、回転データの2次元投影と軌道解析で数える技術が導入されています(Fig.17〜18)。
具体的には、三次元の回転軌道を主成分分析(PCA)によって最もエネルギーが集中する平面に投影し、その中で円または半円の運動を何回繰り返したかをカウントするという手法です。

Fig.17:平泳ぎとフリースタイルの違い
ストロークの回数を2次元軌道としてカウントする方法を示した図です。センサーデータを円運動としてモデル化し、その軌道の回転数からストローク数を自動算出します。フリースタイルでは、1ストロークあたりに大きな回転が発生し、平泳ぎでは回転のピークが半分以下になるなど、泳法ごとの特徴が定量的に現れます。
これにより、無関係な腕の動きや誤認識を除外して、より高精度なストロークカウントが実現できます。

ターンとラップの自動補正

泳法によってはターンの検出が困難な場合もあります。特許では、「ストロークのばらつき」や「過去の傾向データ」からターンの漏れを補完し、ラップ数の自動修正まで行います(Fig.26)。 また、泳ぎのパターンが安定していれば、「このタイミングで1ラップが終了した」とAIが推定する仕組みも組み込まれています。

Fig.26:ラップカウント誤差の確率分布関数
Fig.26は、1269セッションの結果の記録です。ウェアラブルデバイスによってカウントされたラップ数と真のラップカウントとの間の誤差が小さいことを示しています。

プールの長さもApple Watchが測定

Apple Watchは、プール長もユーザーに代わって推定してくれます。

  • プールサイドを歩く動作を計測し、歩数×歩幅でプール長を算出
  • あるいは、1ラップあたりのストローク数 × 平均ストローク長でプール長を算出

この結果を元に、総泳距離や消費カロリーがより正確に記録されます。

特許の意義と今後の展望

この特許が示す最大のインパクトは、Apple Watchが「泳ぎのスキルまでも測定し、フィードバックできる」レベルにまで進化する可能性を持つことです。
この特許で示された技術により、ラップタイムやストローク数の表示だけでなく、今後以下のような展開を期待されます:

  • スマートコーチ機能:フォームの乱れや呼吸間隔の改善提案
  • AIトレーニング解析:過去データとの比較による上達度の可視化
  • 安全アラート機能:呼吸異常や急な疲労兆候の検出

Appleはヘルスケア領域において、陸上だけでなく水中のユーザー体験をも発展させようとしています。

まとめ:泳ぎの“見える化”はAppleの手に

Appleの特許US12295726B2は、単なるデータ収集にとどまらず、人の運動を正確に解釈するという高次の目標に向かっている点で、非常に先進的です。

水泳というセンサーデータの取得が難しい環境でも、「センサー処理」+「AI分析」+「補正アルゴリズム」の統合によって、Apple Watchはまさに“水中のコーチ”として機能するようになるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 12,295,726 B2
タイトル:Systems And Methods For Determining Swimming Metrics
発明者:Bharath Narasimha Rao, Craig Mermel, Karthik Jayaraman Raghuram, Hung A. Pham, 他
出願人:Apple Inc.
登録日:2025/5/13
出願日:2024/2/12
特許の詳細については、US12295726B2を参照してください。

【参考記事】[Patently Apple] (https://www.patentlyapple.com

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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