Apple Watchの特徴的な入力装置である「クラウン」。2025年7月に公開された特許(US 12346070 B2)は、この小さな回転式ノブにさらなる進化を加えるものです。ユーザーの操作に合わせて“回し心地”が変化する可変摩擦フィードバックを備えた、クラウンの構造と制御方法が詳細に記載されています。
この記事では、この特許の技術的な中身を図面の解説とともに分かりやすくご紹介します。
可変摩擦フィードバックとは?
この特許(US12346070B2)では、クラウンの回転に応じて、その摩擦力を機械的・電気的に制御する機構が導入されています。通常の回転では滑らかに回るクラウンが、例えば画面スクロールの途中で「段差のような感触」や「回しづらさ」を感じさせることで、ユーザーにWatchユーザーインターフェースがどんな状態なのかを直感的に伝えることが可能になります。
この「クラウンの回しやすさの変化」を生み出すために、クラウンのシャフトに接触する摩擦要素(friction element)と、それを制御するアクチュエータが組み込まれています。
可変摩擦フィードバックの構造と動作
Fig.1は、可変摩擦クラウンを備えた電子デバイス全体の構成を示しています。クラウン(121)はプロセッシングユニット(111)に接続され、入力装置として回転・押下・タッチ入力を受け付けます。
この図からは、クラウンが単なる物理的な部品ではなく、回転センサー、可変摩擦フィードバックを提供する摩擦制御機構(124)、ECGセンサーなど複数の機能を統合した“多機能入力デバイス”であることが分かります。

Apple Watchの外観とクラウンの断面構造
Fig.2Aは、Apple Watchの本体(212)と、右側に設けられたクラウン(221)の外観図です。クラウンは外側のクラウンボディ(220)と内部のシャフト(222)で構成され、回転や押下が可能な構造です。
Fig.2Bは、クラウンの断面構造です。この特許の中心技術である可変摩擦機構(224)がクラウンのシャフト(222)周辺に配置されている様子が示されています。この可変摩擦機構は、アクチュエーターと摩擦エレメントから構成され、シャフトとの接触圧を動的に変化させることで、回転に対する抵抗力=摩擦トルクを制御します。


摩擦トルクの変化パターン
この特許では、クラウンがさまざまなインタフェース操作に適用できる適用例を説明しています。Fig.4A〜4Dでは、その摩擦トルクの変化パターンがグラフで示されています。
時間に応じた摩擦トルク変化
Fig.4は、T0~T4までの時間軸上で、F1→F2→F3と摩擦トルクが変化しています。
このような変化を起こすことで、リストの項目を高速スクロール中に一時的に摩擦を高めて「節目」をユーザーに知らせるといった使い方が考えられます。

回転位置に応じた連続的な摩擦変化
Fig.4Bは、回転角R0〜R1の範囲で、摩擦トルクが直線的または非線形に増減しています。
このような変化によって、音量やズームレベルの変更において、最大/最小に近づくほど重くなる感触を提供することができます

クリック感・ラチェット感を再現する周期的な摩擦変化
Fig.4Cのカーブ420/422/424は周期的にトルクが変化し、物理的な”カチカチ”としたクリック感を模倣する摩擦パターンです。
カーブ426はラチェット構造のように一方向のみに抵抗を与える設定で、片方向スクロールやカウントに有効です。

非周期的な摩擦パターン
Fig.4Dのグラフ430は、複数の摩擦変化ポイントを組み合わせた応答を示します。
このような変化により、動画のチャプター切り替え点でフィードバックを加えることができ、指先の感覚だけで“ここが切れ目”だと分かるようにすることが可能です。

摩擦機構の物理構造
この図では、クラウン内部の摩擦制御メカニズムがどのように構成され、動作するかを模式的に示しています。
- Fig.5A:クラウンシャフト(522)に摩擦部材(529)が軽く接触している状態。これは摩擦が少なく、クラウンがスムーズに回転する状態を表します。
- Fig.5B:アクチュエーター(525)により摩擦部材(529)がシャフトに押し付けられ、摩擦トルクが上昇した状態。ここで“クリック感”や“抵抗感”をユーザーが指で感じ取る仕組みです。

シャフトを取り囲む摩擦制御機構
シャフトを取り囲む摩擦制御機構の断面図
Fig.6は、Apple Watchに組み込まれたクラウンとその内部の摩擦制御機構(Variable Friction Mechanism)の断面図を示しています。
この図では、ユーザーが回すクラウン本体から伸びるシャフトがデバイス内部へと貫通している様子が描かれています。そのシャフトの周囲には、可変摩擦を生じさせる機構が配置されています。

断面B-Bに沿った摩擦要素の構成詳細
Fig.7は、Fig.6のB-B断面に沿った拡大図で、摩擦制御機構の内部構成をより詳細に表現しています。シャフトの周囲には、環状に配置された複数の摩擦要素(friction elements)と、それらを制御するアクチュエータ(actuators)があります。
これらの摩擦要素は、通常はシャフトから離れた状態にあり、アクチュエータが作動することでシャフトに押し付けられる仕組みとなっています。その結果、回転に対する抵抗トルクが動的に変化し、ユーザーが感じる「回し心地」に変化が生じます。

摩擦機構のバリエーション設計例
Fig.8では、Fig.6に類似した断面図ですが、異なる構造バリエーションが提示されています。

まとめ
この特許で示されたApple Watchクラウンの進化は、「ハードウェアで感触を制御するユーザーインターフェース」への取り組みの一つです。
- 視覚に頼らず、手の感覚で操作をナビゲートする
- アプリや操作内容に応じてクラウンの“フィーリング”を変える
- 触覚インタフェースによる没入感やアクセシビリティの向上
Appleの特許「US12346070B2」には、一見小さなパーツである“クラウン”に、驚くほどのテクノロジーとユーザーインターフェースが詰まっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
特許情報
特許番号:US 12346070 B2
タイトル:Variable Frictional Feedback Device for A Digital Crown of An Electronic Watch
発明者:Steven J. Taylor, Brenton A. Baugh
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/7/1
出願日:2023/12/20
特許の詳細については、US12346070B2を参照してください。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。