カラーサンプリングペンシル – Apple Pencilが「色をコピー」するデバイスへ(US12314489B2)

IT特許

今回Appleが取得した特許は、アーティストやデザイナーの創造性を刺激する革新的な特許です。外部の色を取り込み、そのままデジタル上で再現できる「カラーサンプリングペンシル」(カラー標本機能付きスタイラス)です。

この記事では、この特許の内容を、図面と共に詳しく解説していきます。

現実の色をそのままデジタルに取り込むという発想

この特許は、Apple Pencilなどのスタイラスにカラーセンサーを内蔵し、現実世界の物体の色を読み取って、iPadなどのデバイスで即座に使用できるようにする技術に関するものです。

少し前まで、アーティストは色見本帳を見ながら近似色を探すというアナログな作業を行っていました。しかし、この特許技術を使えば、ソファーの色、風景の一部、雑誌の写真、肌の色など、実物をタッチするだけで、その色をキャプチャし、すぐにペイントアプリで使えるようになります。

この「色をコピーするApple Pencil」は、まさにリアルとデジタルをつなぐ架け橋となるデバイスです。

現実の色を取り込んで、そのままデジタルに反映!

Fig.1は、Appleのカラーサンプリングペンシル(10)とiPadのようなタブレット端末(24)を組み合わせたシステムの全体像を示しています。

このスタイラスは、通常のApple Pencilと同様に画面上に線(52)を描く機能を持つだけでなく、背面(E側)に搭載されたカラーセンサー(54)で、現実の物体(50)の色を読み取ることが可能です。

たとえば、花びらの上にペンの背を当てて色を取得し、そのままiPadで同じ色を使ってスケッチができる、そんな直感的で創造的な体験を可能にするのが、この図が示す未来のデバイスなのです。

ペンの後端に格納されたカラーセンサーの構造:Apple Pencilの中に小型分光計を内蔵?

Fig.3では、カラーサンプリングペンシルのE側(後端)の内部構造を分解図として示しています。

ここでは、カラーセンサー(54)がペンのキャップの内部に搭載されており、光検出器(54D)と光源(54E)から構成されていることがわかります。

  • 光検出器(54D):複数の異なる波長帯に対応したフォトディテクタを備え、物体の反射光を精密に測定します。
  • 光源(54E):白色LEDや赤・緑・青の個別LEDを備え、対象物を適切に照らすことで測色精度を向上させます。

透明または半透明なキャップ(62)を装着することで、測定時の保護やキャリブレーションにも使える工夫がなされています。

押すだけで色をキャプチャー!直感的なスイッチ機構

Fig.4では、スタイラスのE側断面構造と、カラーセンサーを作動させる物理的スイッチ機構の仕組みが示されています。

ユーザーがペンの後端(60E-1)を対象物に押し当てると、内部のセンサー保持部(60E-2)が動き、スイッチ(74)が作動。これによりカラーセンサーが作動し、色の測定が自動的に始まります。

さらに、押し戻し機構や空気層(76)が動作の柔軟性と耐久性を担保。加えて、E側の外装には拡散フィルム(70)や光学レンズを内蔵し、色測定の精度を最大限に引き上げる工夫も詰め込まれています。

特許では、センサーを動作させるためのインターフェースとして、以下のようなトリガー方式が示されています:

  • 押し込み式スイッチ:ペンの端を対象物に押し当てることで作動します。
  • 近接センサー:対象物との距離を検出して自動作動します。
  • 向きセンサー(IMU):ペンが上下逆さま(=色取得モード)であることを検出します。

ペン先で色を測るための光導波路

Fig.5は、ペンの先端(T側)で色を測定するための構造を示した断面図です。

ペンの先端では、細いペン先にカラーセンサー(54)を近づけることができないので、ペン先で取り込んだ光をセンサーまで導く必要があります。ポイントは内部に組み込まれた透明な光導波路(90)の存在です。これにより、ペン先で取得した光をペン内部のカラーセンサー(54)まで伝送し、正確に解析できる仕組みが成立します。

この光導波路は、タッチ検出用の電極(94)も兼ねており、描画と色取得の両立を可能にする巧妙な設計。ユーザーがペン先を押し当てると、対象に近づいたことをセンサー(18)が検出し、内部の光源(54E)が光を出し、反射光がカラーセンサー(54)に届くという仕組みになっています。

色々な分野への応用

Appleのカラーサンプリング技術は、いろいろな応用が考えられます。

アート・デザイン分野

  • 現実世界から色を取り込み、カラーパレットに追加します。パレットで補色・類似色を自動生成し、デザインを支援します。

ホームユース

  • 壁や家具の色をサンプリングし、色の近い塗料やインテリアを推薦したり、DIYやリフォーム時のカラーが一致するか確認できます。

ヘルスケア

  • 肌の色、爪の色、粘膜の色などから健康状態を簡易チェックできます。
  • 尿検査用のpHカードなどの色変化を読み取り、数値化します。

食品や化粧品の品質チェック

  • 食品の酸化状態や熟度の判定や、ファンデーションやリップの色選びにも応用可能です。

技術ポイント

Appleの特許には、実用化に向けた高度な工夫が詰め込まれています:

  • 複数の発光素子:赤・青・緑だけでなく、UVやIRも照射可能です。
  • 複数チャネルのフォトディテクタ:光の波長を分解したスペクトル分析を行います。
  • モジュレーション制御:発光パターンを周波数で変化させ、環境光との分離精度を向上します。
  • 発光体がオフ状態での測定:対象が発光体(ディスプレイなど)であるかを検知する仕組みです。
  • キャリブレーション機能:特定の白色キャップやカラーチャートを使った補正を行います。

これらの設計により、カラーセンサーは非常に高精度な測定が可能となり、プロフェッショナルユースにも十分対応できる仕様となっています。

まとめ

Appleは、すでにApple Pencilに関して様々な特許を取得しています。筆圧・傾き・触覚フィードバック、そして今回のカラーセンシング。これらを組み合わせることで、Apple Pencilは単なるスタイラスではなく「万能なリアルタイム入力装置」に進化します。

例えば、屋外で花の色をサンプリングし、iPadにスケッチする。子どもの絵に使われているクレヨンの色を読み取り、デジタルで再現する。インテリアの配色を調整するために、家具の色を取り込み、アプリが提案するカーテンやクッションを試してみる。新しいApple Pencilが出来ればこのようなことが可能になるかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 12314489 B2
タイトル:Computer System with Color Sampling Stylus
発明者:Nicholas C, Lewty, Mahdi Nezamabadi, Po-Chieh Hung, Tze Yong Poh
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/5/27
出願日:2021/7/30
特許の詳細については、US12314489B2を参照してください。

【参考記事】[Patently Apple] (https://www.patentlyapple.com

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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