Appleが取得した特許 「US12314489B2 – Computer System With Color Sampling Stylus」 は、単なるスタイラスペンの枠を超えています。
この技術は、「現実の色をデジタルに取り込む」という、外部の色を取り込み、そのままデジタル上で再現できる「カラーサンプリングペンシル」(カラー標本機能付きスタイラス)です。
この記事では、この特許の内容を、図面と共に詳しく解説していきます。
(詳しい図面は、US12314489B2からご参照ください。)
現実の色をそのままデジタルに取り込む
ペン先で画面をなぞるだけでなく、ペンの反対側で物体に触れると、その色を吸い上げてデジタルキャンバス上に再現できる。
まるで現実と仮想がひとつのインターフェースでつながるようなコンセプトです。
少し前まで、アーティストは色見本帳を見ながら近似色を探すというアナログな作業を行っていました。しかし、この特許技術を使えば、ソファーの色、風景の一部、雑誌の写真、肌の色など、実物をタッチするだけで、その色をキャプチャし、すぐにペイントアプリで使えるようになります。
「自然の中の色をスキャンして、そのままキャンバスに使う」というアイデアは、デザイナーやアーティストだけでなく、ヘルスケアや教育、日常の生活まで変えてしまう可能性があります。
Appleが次に目指すのは、「見る」でも「触れる」でもなく、“色を感じる入力体験”です。
図面の説明
Fig.3:取り外し可能なキャップと光学センサーの構造(図面は、US12314489B2をご参照ください)
Fig.3は、ペン後端(E)に設けられたカラーセンサー部54の構造です。

このセンサーは、受光素子(54D)と発光素子群(54E)から構成され、物体表面に光を照射し、反射光を解析することで色を特定します。
小型分光計のように、複数のフォトダイオード(54E)が異なる波長帯を担当し、反射光のスペクトルを多次元的に捉えます。
Apple Pencilが単なる“描く道具”から“測る道具”へと進化させる機能です。
センサーはキャップ(62)で保護されており、キャップの素材には白色樹脂によるキャリブレーション機能を持たせています。
このキャップを基準として、センサーが正確な色再現を維持できるよう補正を行う設計になっています。
この構造は、Appleがいかに「精密な計測機器」としての信頼性を重視しているかを物語ります。
Fig.5:光ガイドを使った“ペン先測色”の仕組み(図面は、US12314489B2をご参照ください)
FIg.5は、もう一つの重要な構成である、ライトガイド(90)を使った測色方式を示しています。

この例ではセンサー本体がペン内部に配置され、光を透明な光学構造体(ライトガイド, 90)によってペンチップ(T)から導きます。
つまり、Apple Pencilの「書く部分」から色を読み取ることが可能になるのです。
ライトガイドを通じて、発光素子(54E)から照射された光が対象物に当たり、その反射光を再びライトガイド経由で受光素子(54D)が検出し、スペクトルデータとして解析する仕組みです。
この構造により、画面上のピクセルカラーだけでなく、現実の紙や布、肌、果物などの色までをデジタル化できる。
Appleがスタイラスをセンシングツールと定義していることがよく分かります。
Fig.1:全体システム構成(図面は、US12314489B2をご参照ください)
Fig.1では、スタイラス(10)とiPadなどのタブレット(24)との連携が描かれています。
スタイラスがBluetooth®経由でタブレットと通信し、画面上の線(52)を描くだけでなく、取得したカラー情報をリアルタイムで送信する。
これにより、実物の色をそのまま描画アプリのパレットに登録できる仕組みになっています。
Fig.2:電子回路構成(図面は、US12314489B2をご参照ください)
Fig.2は、制御回路(12, 26)や通信回路(14, 28)、入出力デバイス(16, 30)の関係を示すシステム図です。
ここで注目すべきは、光学センサー群(18, 32)が統合的に動作している点。
Appleの特許では、これらを単独ではなく、センサーフュージョン(sensor fusion)として制御することを強調しています。
たとえば「スタイラスが上下逆さにされたときのみ色を測る」といった、直感的なユーザー体験を実現します。
Fig.4:押すだけで発色を“キャッチ”するメカニズム(図面は、US12314489B2をご参照ください)
FIg.4では、ペン後端を対象物に押し当てると、スイッチ(74)が作動し、自動的に測色を開始する構造が示されています。
この「押す=測る」というアナログ的動作を、デジタルの精密計測と結びつけることで、誰でも直感的に使えるユーザー体験を実現しています。
プロキシミティセンサーや姿勢検出(IMU)も併用され、誤作動を防ぎながら自然な操作を可能にしています。
Fig.6:カラーキャリブレーションとアルゴリズム(図面は、US12314489B2をご参照ください)
Fig.6は、測色アルゴリズムの流れを示すフローチャートです。
色基準チャートを使ったキャリブレーション工程(Block 100)では、光検出素子の特性を行列演算(明細書11ブロック、式1, 2)で補正しています。この数理処理により、ペンは一般的な環境光の影響を受けず、正確な色データを出力できるようになります。
発明のポイント:Appleが描く“色のインタフェース”
この特許の最大の革新点は、「スタイラスそのものを分光センサー化した」点にあります。
従来のスタイラスは「位置」と「圧力」しか認識できませんでした。
しかしこの技術では、光検出器とマルチカラーLEDを内蔵し、RGB空間やXYZ空間での色定量化を実現します。
つまり、スタイラスが“小型分光器”として機能するのです。
特筆すべきは、センサーが「測定対象がディスプレイの光源か、反射物か」を自動判定する点です。
特許中の制御回路は、光源をON/OFFしながら同期的に測定を行い、「光を自ら発している(ディスプレイ)」か「反射している(物体)」かを見分けるアルゴリズムを搭載しています。
この仕組みにより、ディスプレイキャリブレーションからペイント色の識別、化粧品の色選定まで、幅広い応用が可能になります。
Appleはこの特許で、「デジタルと現実の色を同一空間に置く」という新しい創作体験を設計しているのです。
応用可能性と今後の展望
この特許技術は、Apple Pencilの拡張としてだけでなく、将来的な“Apple カラーエコシステム”の中核にもなり得ます。
- デザイン・アート分野では、現物の色をスキャンして即座にキャンバス上で再現します。
たとえば絵具や布の色を取り込み、デジタルペイントツールに即座に反映できます。 - ヘルスケア分野では、肌や唇の色を測定して健康状態を推定します。
pH検査カードなどの化学的変色を読み取る機能も想定されています。 - スマートホーム分野では、壁や家具の色を読み取り、ARアプリ上でインテリアの色調整を行うことができます。
将来的にはHomePodやVision Proと連携し、空間全体の「色データベース」を形成することも可能でしょう。
このように、Appleは“光と色”を媒介に、ハードウェアとソフトウェアの垣根をなくしつつあります。
ユーザーは「描く」「測る」「感じる」をすべて一本のペンで完結できる。
それは、Appleが長年追い求めてきた“ナチュラルコンピューティング”の進化形と言えるでしょう。
まとめ
- Appleは、現実の色をデジタル空間に取り込むスタイラスを開発している。
- 光源とセンサーを内蔵し、ペン先または後端から物体の色を測定できる。
- この技術は、アート・ヘルスケア・空間設計など、多分野に応用可能である。
最後までお読みいただきありがとうございました。
特許情報
特許番号:US 12314489 B2
タイトル:Computer System with Color Sampling Stylus
発明者:Nicholas C, Lewty, Mahdi Nezamabadi, Po-Chieh Hung, Tze Yong Poh
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/5/27
出願日:2021/7/30
特許の詳細については、US12314489B2を参照してください。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。


