「カメラ不要」の視線追跡とは?Appleの次世代HMD技術に迫る(US2025/0181155A1)

IT特許

近年、Appleは拡張現実(AR)や仮想現実(VR)といった空間コンピューティング分野に力を入れており、Vision Proやスマートグラスなどヘッドマウントディスプレイ(HMD)の開発が進められています。そんな中、2025年6月に公開されたAppleの特許「US2025/0181155A1」は、カメラを使用せずに視線追跡を実現する革新的な技術を提案しており、今後のHMDやARグラスの設計に大きな影響を与える可能性があります。

この記事では、この特許がどのような仕組みでユーザーの視線を捉え、どのように次世代デバイスに応用されるのかを、図面の解説を交えながら分かりやすく紹介します。

カメラを使わない視線追跡とは?

これまでの視線追跡技術では、ユーザーの目に赤外線などを照射し、その反射(グリント)をカメラで撮影して分析する方式が主流でした。しかし、カメラを使用するには設置スペースの確保や消費電力、画像処理の複雑性といった課題がつきまといます。

Appleの新技術は、カメラを使わずに、光の反射を直接センサで捉える、という発想で、これらの課題を解決するものです。

注目すべき技術ポイント
この技術では、以下の要素で視線を追跡します。

  • スキャン型光源(例:MEMSレーザースキャナ):目に向けて複数方向に光を照射
  • フォトダイオード(光検出素子):目から反射された光を検出
  • 回折/屈折レンズ(Refractive/Diffractive Medium):光を通過させる透明素材
  • プロセッサ:光の反射情報から目の位置・動きを推定

透明なセンサ

この特許では、センサや導線そのものを視認不能にするため、以下のような材料と設計が採用されています。

  • 透明導体(ITOやグラフェンなど)
  • 5〜100μm程度の極小フォトダイオード
  • レンズ内部への埋め込み・非対称配置

これにより、一般的な眼鏡やARグラスとほとんど見分けがつかない形状でありながら、高性能な視線検出を可能にしています。

特許図面の説明

Fig.1:視線追跡対応のHMDを装着したユーザー環境
複数のユーザーがそれぞれ異なるHMD(105, 125, 165)を装着し、拡張現実環境の中で個別に最適化された情報を得ている様子を示します。各HMDは視線検出用のセンサを搭載しており、ユーザーの注視方向や姿勢を把握して、XR体験を高める機能を担います。

Fig.2:視線追跡システムの基本構成
MEMSスキャナなどの光源(220)から発せられた光は、レンズ(210)を通過し、眼球(111)で反射します。その反射光を、複数のフォトダイオード(230〜236)が検出します。フォトダイオード(230〜236)は、レンズ(210)の後方であってディスプレイ(240)の前方に配置されています。カメラを介さず直接光を捕捉するこの方式により、精度と応答性が向上し、小型化にも寄与します。

Fig.3:Fig.2の視線追跡システムの異なる実施形態
Fig.3Aは、偏光制御による高精度反射光処理を示す図です。光源の出力を調整するため、偏光制御ユニット(226)や反射ミラー(224)、アダプティブセンサ(225)が構成されています。これにより、角度や素材の違いによる反射の乱れを補正し、より安定した視線情報を取得できます。
Fig.3Bは、空間光変調器を用いた3D測距です。光変調器(310)と半透過ミラー(312)を用いることで、反射光の位相差を捉え、眼球の深度情報(Z方向)も取得可能になります。これにより、瞳の3D位置推定や顔認証用途への展開が可能になります。

Fig.4:フェーズシフトによる反射追跡とZ深度推定
光ビームを複数方向へスキャンし、反射位相の差分を時間軸(t1, t2)で解析します。これにより、リアルタイムにユーザーの目の位置を3次元的に特定でき、近接センサや空間認識機能に応用可能です。

Fig.5A〜5D:透明導体とレンズ内蔵センサ構造
レンズ層内(515)(空気層やバイアス層)にフォトダイオード(530, 532, 534, 536)を埋め込み、かつ透明導体で配線を行うことで、視界を妨げない視線追跡を実現。特にFig.5Cではレンズ(515)の中間層(エアギャップ(547))に埋め込んだ構造が、Fig.5Dではレンズ(515)の裏面に取り付けられた構造が描かれています。

Fig.8:ヘッドマウントデバイスのブロック図
ディスプレイ(810)からの光(画像)は接眼レンズ(805)で屈折してユーザーの眼で焦点が合います。これにより、ユーザーは眼からディスプレイ(810)までの実際の距離よりも遠くにあるように見えます。ハウジング(801)には、光源(822)、カメラ(824, 832, 834, 836)およびコントローラ(880)を含む視線追跡システムも収容されています。

まとめ

Appleの特許「US2025/0181155A1」で示されるカメラを使わない視線追跡技術は、「視線を追跡する技術」で解説した胸膜反射法の応用と考えられます。レンズに埋め込まれた見えないセンサによる視線追跡技術は、従来のカメラベースの限界を超え、より軽量・高精度・非接触な次世代HMDを実現する礎となります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 2025/0181155 A1
タイトル:Camera-less Eye Tracking System
発明者:Gelareh Babaie, Manohar B Srikanth, Yanli Zhang, Navid Afsarifard, Sundeep K Jolly, Moinul H Khan, Arthur Y Zhang, Ray L Chang, Axit H Patel, Antonio A Gellineau
出願人:Apple Inc.
登録日:2025/6/5
出願日:2024/11/12
特許の詳細については、US20250181155A1を参照してください。

【参考記事】[Patently Apple] (https://www.patentlyapple.com

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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