MacBookのキーボードに手を置いただけで、心拍や血圧が測れる! Appleが取得した特許(US12396677B2)は、そんな未来を現実にする技術です。このAppleの特許は、MacBookのボディに埋め込まれたバイオセンサーによって、ユーザーが気がつかないうちに生体情報を非接触で取得する仕組みを提案しています。
この記事では、この技術の仕組みについて、図面の説明をもとにわかりやすく解説します。
(この記事にない図面はUS12396677B2からご参照ください。)
手のひらから健康状態を読み取るMacBook
Appleが開発したこの技術のポイントは、「ユーザーが特別な動作をしなくても健康データを取得できる」という点にあります。例えばMacBookで文字を打っている最中、ユーザーの手のひらがパームレストに触れているだけで、センサーが光を当て、手のひらの反射光を受信し、生体情報を分析します。
Fig. 1AとFig. 1Bは、MacBookのようなラップトップ型デバイスのパームレスト部分に、バイオセンサーが内蔵されている様子が描かれています。ユーザーが自然に手を置く場所(図中の「エリア101」)が、センサーによる測定ポイントとなっている点が特徴です。

センサーの構造と仕組み
センサーが設置されるパームレスト部分には、「トランスルーセント層(translucent layer、半透明層)」の内側に「不透明層(opaque layer)」が配置されており、この不透明層には人の目には見えないほど小さな微細孔(マイクロパーフォレーション micro-perforations、30~70μm程度)が多数あけられています。
このマイクロパーフォレーションを通して光を照射し、反射して戻ってきた光を再び別の孔で受信する仕組みが採用されています。
Fig.2とFig.3は、光の照射(送光)と受光の方法が異なるセンサーの構造です。
Fig.2は、送受光を同一領域で行う構成です。マイクロパーフォレーションは、不透明層に開けられ、一つの領域内に均一に分布しています。このマイクロパーフォレーションを通して、光の照射と反射光の受信を共有するので、コンパクトな設計が可能です。ただし、送光と受光の光路が干渉しやすく、光学的ノイズやクロストークの影響が出やすいという欠点があります。
Fig.3の不透明層(311)には送光用と受光用のマイクロパーフォレーション領域があり、中間の不透明分で区切られています。送光と受光の光路が空間的に分離しているため、干渉が起きにくく、反射光の精度が高くなります。また、センサーのレイアウトが最適化されているため、複数波長や受光素子の複数化が容易になります。

Fig.4とFig.5は、送受光の光の角度が異なるセンサーの断面図です。
Fig.4は、光源と受光部が垂直方向に配置された基本構成が示されています。光源(414)の光は、マイクロパーフォレーション(212)を介して半透明層(102)を通過し、ユーザーの身体の一部で反射して、マイクロパーフォレーションアレイの下に配置されたバイオセンサー(415)で受光します。
Fig.5は、マイクロパーフォレーション(512a, 512b)は半透明層(502)の外面に対して角度をもって配置されています。これによって、Fig.6に示すように、光源(514, 614)の光はユーザーの身体に角度を持った方向から送光し、その反射光をバイオセンサー(515, 615)は受光します。これによって、反射光の受光が改善されます。

光学的生体センシングとPPG
PPG(Photoplethysmography、光電式容積脈波記録法)は、皮膚に光を当てて、その反射や吸収具合から、体内の血液量の変化を測定する技術です。
Fig.6で示されるように、LEDなどの光源からの光を皮膚に当てて、フォトダイオードなどの受光素子で受光します。
血液(特にヘモグロビン)は特定の波長の光を吸収するので、血量が多いと光の吸収が大きくなり、反射光の強度が低下します。
測定された反射光の強度は、ノイズ除去と信号強調の前処理を行った後に、ピーク検出とピーク間隔(RR間隔、またはIBI)を計算します。
このデータから以下の生体パラメータを推定することが可能です。
測定項目 | 説明 |
心拍数(HR) | ピーク間隔の平均、または周波数解析から算出 |
呼吸数 | PPGの低周波成分の包絡線分析(リズム変動)から算出 |
血中酸素飽和度(SpO2) | 赤波長/赤外波長のAC/DC成分比を用いた推定 |
血圧 | PPT法、またはPPG波形の特徴量を多変量回帰 |
血液量の推定 | 血流の強度や変動から推定 |
センサーの他の応用
ユーザー検出による自動操作
バイオセンサーは健康情報の取得だけでなく、「ユーザーが近づいたことを検出して自動的に操作状態へ移行」するトリガーとしても活用されます。
Fig.7A, Fig.7Bは、ユーザーの手を検出して、ディスプレイを自動点灯する例について示しています。
Fig.8は、暗い環境で、キーボードやトラックパッドを自動点灯する例について示しています。
ユーザーの健康状態の表示
Fig.9は、MacBookが取得した心拍数などのデータをリアルタイムで表示している様子が示されています。さらに、継続的に測定されたデータを記録・統計化することで、
- 健康状態の傾向把握
- 他ユーザーとの比較
- ストレス状態や集中度の推定
といった高度なフィードバックも実現できるとされています。
まとめ
Appleのバイオセンシング特許によって、MacBookは単なるパソコンにとどまらず、パーソナル・ヘルスケアデバイスとしての役割を果たすようになるかもしれません。
Appleは既に、iPhone、Apple Watchでユーザーに健康情報を提供していますが、MacBookでも行えるようになることで、より多くのユーザーに“健康モニタリング”による健康維持を届けることが可能になるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
特許情報
特許番号:US 12396677 B2
タイトル:Portable Electronic Device Having An Integrated Bio-Sensor
発明者:Qiliang Xu, Richard G. Huizar
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/8/26
出願日:2021/8/30
特許の詳細については、US12396677B2を参照してください。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。