スマートウォッチは血圧計になるのか──Appleの血圧解析特許を徹底解説 (US20260000306A1)

Apple特許

血圧は健康管理の基本指標でありながら、その測定行為は今もなお「特別な作業」に留まっています。家庭用血圧計は確かに普及しましたが、カフを巻き、姿勢を整え、測定音を聞きながら待つという体験は、日常的に繰り返すには煩雑です。
一方で、スマートウォッチは心拍数や血中酸素濃度を、ユーザーが意識しないレベルで取得できるようになりました。ではなぜ、血圧だけが同じ進化を遂げていないのでしょうか。
この問いに対し、Apple が提示した一つの答えが、公開特許 US20260000306A1 です。この特許出願は、血圧を「カフで測る対象」ではなく、血管の反応として推定可能な生体パラメータとして捉え直しています。

この記事では、この技術の仕組みについて、特許図面と技術ポイントからわかりやすく解説します。

(この記事にない図面は、この特許の出願公開 US20260000306A1 からご参照ください。)

発明の概要:どのように血圧を測定するのか

本特許における血圧測定の基本的な考え方は、「血圧そのものを直接測る」のではなく、外部から加えた圧力に対する血管の反応を解析することで血圧を推定するという点にあります。従来のカフ式血圧計のように血流を遮断する必要はなく、ユーザーが皮膚をデバイスに押し当て、測定が進行します。

測定時、ユーザーは指などの皮膚領域をデバイスのセンシング部に接触させ、一定時間にわたって圧力を徐々に変化させます。このときデバイスは、圧力センサによって皮膚から加えられる圧力を連続的に測定すると同時に、光学センサによって皮膚内部の血液量変化、すなわち脈波(パルス波)を取得します。重要なのは、これら二つの信号が同一位置・同一時間軸で同時取得される点です。

取得された血液量信号からは、心拍に対応する一連の脈波が抽出されます。各脈波は、外部圧力の影響を受けて形状が変化しており、その形状(モルフォロジー)には血管のコンプライアンスや血圧状態が反映されています。本発明では、この脈波形状を定量化するために、AUC(Area Under the Curve:波形の面積)などの指標が用いられます。

こうして得られた「圧力値」と「脈波形状指標」の組み合わせは、一連のデータ点として整理されます。圧力を低い状態から高い状態まで変化させることで、これらのデータ点は一定の分布を形成し、その分布の特徴から拡張期血圧や収縮期血圧に対応するポイントを特定することが可能になります。つまり、血圧は単一の測定値として得られるのではなく、圧力と血管応答の関係性を解析した結果として導き出されるのです。

この方式により、血圧測定は「カフを巻いて測る行為」から、「自然な操作の中で推定される生体情報」へと変わります。スマートウォッチやボタン型インターフェースと組み合わせることで、日常的かつオンデマンドな血圧測定を実現すること可能になります。

図面の説明

Fig.2A:センシングアセンブリの断面構造 (図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)

Fig.2Aは、血圧検知部品(105)の断面図です。
指(202)が接触する界面の直下には、光学センサ(106)と圧力センサ(108)が積層構造で配置されています。光学センサは皮下の血液量変化を検出し、圧力センサは指が加える力をリアルタイムで計測します。
この構成により、同一位置・同一時間軸で「圧力」と「血液量信号」を同時取得できる点が、本特許の成立条件となっています。

Fig.5:AUC解析に基づく血圧推定アルゴリズムの仕組み (図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)

Fig.5Aでは、光学センサで取得された複数の脈波が正規化され、AUC(Area Under the Curve)を算出します。
各脈波を時間軸・振幅軸の両面で正規化したうえで、波形全体の面積(AUC)を算出します。AUCは、単なるピーク値ではなく、脈波の立ち上がり、減衰、持続時間といった形状情報を包括的に反映する指標です。このため、血管のコンプライアンス変化を安定して捉えることができます。
Fig.5Aに示されている複数の正規化脈波は、異なる外部圧力条件下で取得されたものであり、それぞれに対応するAUC値が算出されます。

Fig.5Bは、加えた圧力とAUCをプロットしたグラフです。
各脈波が取得された瞬間の外部圧力値と、対応するAUC値とを組み合わせ、データ点として整理します。
この処理により、測定期間全体にわたって、横軸:皮膚に加えられた圧力、縦軸:脈波形状を表すAUC、という形式の散布データが得られます。
アルゴリズムは、Fig.5Bに示されるような圧力―AUC曲線に対して解析を行い、
 ◦AUCが最大となる圧力
 ◦AUCの変化率が大きく変わる圧力点
などを抽出します。これらの圧力値を基準として、拡張期血圧および収縮期血圧が推定されます。

Fig.1:デバイスの構成図(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.1Aはデバイス全体のブロック構成を示し、各種センサとプロセッサの関係を整理しています。
Fig.1Bは本発明が想定するデバイス形態を象徴する図面です。
スマートウォッチの表示画面には、時間と圧力のグラフが表示されています。測定は圧力プロファイルに沿って進行します。ユーザーは画面のガイドに従って指や皮膚でデバイスを押します。この設計により、再現性のある測定データが取得可能になります。
Fig.1CおよびFig.1Dは、スマートウォッチの前面・背面構造を示し、ECG電極との統合可能性を示唆します。

Fig.2:センシングアセンブリの構造(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.2BおよびFig.2Cでは、Fig.2Aで基本構造を示したデバイスの光学センサの開口配置や寸法関係が示されています。

Fig.3:血液量信号(心拍信号)の例(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.3Aは、光学センサ(106)によって取得される血液量信号(cardiac signal, 302)の一例で、心拍に対応した周期的な振動が観測されます。この振動が、いわゆる脈波(pulse wave)であり、各心拍により血管内に生じる圧力波が皮膚表面近傍の血液量変化として捉えられています。図中の包絡線(304)は、測定中に血管状態が徐々に変化していく様子を表します。

Fig.3Bは、血圧測定中の圧力信号(322)と、ユーザーを誘導するための圧力プロファイル(320)を示した図です。圧力センサ(108)によって測定された実際の圧力値が時間軸に沿って表示され、同時に、目標とする圧力変化(圧力プロファイル(320))がガイドとして提示されます。この構成により、ユーザーはデバイスの表示を見ながら、圧力を徐々に増減させることができ、広い圧力レンジのデータを安定して取得できます。

Fig.3Cは、圧力が連続的に変化するのではなく、複数の圧力レンジを段階的(ステップ状)に切り替える方式が示されています。各ステップでは、上限値(344b)と下限値(344a)で定義された圧力範囲が設定され、ユーザーはその範囲内で圧力を維持します。

Fig.4:血圧推定プロセス全体の処理ブロック図(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.4は、メトリクスのセットに基づいて収縮期血圧および拡張期血圧を決定するためのプロセス(400)です。

Fig.6:PATと圧力を用いた血圧推定データ(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.6A, Fig.6Bは、ECGと脈波の時間差(PAT)を用いる代替推定手法を示しています。

Fig.7:指位置を誘導するための指紋センサ構成(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.7A, Fig.7Bは、センシングアセンブリに指紋センサを組み込んだ構成を示しています。

Fig.8:異なる皮膚領域の測定を可能にする光学構成((図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.8A, Fig.8Bは、異なる皮膚領域からの測定を可能にする例を示しています。

Fig.9:標的皮膚位置を用いた測定プロセス(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.9は、血圧測定において較正測定から標的皮膚位置(Target skin location)を用いる一連のプロセスを示しています。

Fig.10:標的皮膚位置決定アルゴリズム(図面は、この特許の出願公開 US20230098236A1 をご参照ください)
Fig.10Aは、ターゲット皮膚位置を決定するためのアルゴリズムを示しています。
Fig.10Bは、異なる指位置で取得された血液量信号を比較した図です。
Fig.10Cは、指位置と光学信号強度の関係をまとめた図です。

発明のポイント

本特許の最も重要な点は、血圧を直接測定しようとしていないことです。
圧力に対する血管の応答、すなわち脈波の形状変化 を解析することで、結果として血圧を推定するという発想は、センサ融合と信号処理を前提としたアプローチです。
これは機械学習との親和性も高く、個人差補正や経時変化追跡への発展が期待できます。

応用可能性

この技術が実装されれば、血圧測定は特別な行為から日常の操作へと変わります。
スマートウォッチのボタンに指を置くだけで簡単に血圧の傾向が分かるようになれば、高血圧管理や予防医療の形を根本から変える可能性があります。
さらに、他の生体データと組み合わせることで、体調変化の早期検出といった応用も現実味を帯びてきます。

まとめ

この特許は、脈波の形状変化を解析することで血圧を推定する、スマートウォッチ時代に最適化された新しい血圧測定技術を示しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US2026/0000306A1
タイトル:On-demand Blood Pressure Measurement Devices and Methods
発明者:Vivek Venugopal, Albert E. Cerussi, Joseph M. Schmitt, Pranay Jain, Marduke Yousefpor, San, Sohrab Eslami
出願人:Apple Inc.
出願日:2025/1/26
公開日:2026/1/1
出願特許の詳細については、US2026/0000306AIを参照してください。

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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