Apple Watch の登場以降、Apple は「健康情報の取得」を大きな柱としてきました。それは、ユーザーが意識しなくても身体データがいつの間にか取得され、デバイス体験そのものが健康と連動して最適化されていく世界です。その流れはついに MacBook や iPad といったノートデバイスの筐体へと拡張しはじめています。
今回解説する US2025/0352130A1 は、MacBookが健康情報を取得する発明です。見た目にもその存在に気づかないマイクロパーフォレーション(マイクロ穴)を外装内部に設計し、そこからユーザーの手のひらへ光学的にアプローチして生体情報を取得するという技術が記されています。
この US2025/0352130A1 は、すでに特許化された US12396677B2 の延長線上に存在します。前出願(US12396677B2)が示したのは、「不可視バイオセンサーを MacBook に搭載する完成形」。今回の出願(US2025/0352130A1)はその構造をさらに深化させ、光学性能・計測精度・ノイズ耐性を大幅に向上させた“改良版”にあたるのです。
US12396677B2の解説記事はこちら。
この記事では、2つの特許の関係を踏まえながら、今回の出願(US2025/0352130A1)の発明内容の革新性と今後の応用可能性を解説明します。
(この記事にない図面はUS20250352130A1からご参照ください。)
特許の概要
まず、両特許の大局的な違いを理解しておくと、本発明の価値がわかりやすくなります。
前特許 US12396677B2 では、
◦デバイス筐体内部に不可視のバイオセンサーを配置
◦マイクロパーフォレーション(マイクロ孔)を通じて光を照射・受光
◦反射光を受光して心拍などを測定
◦見えない IR 光で近接検知し、手で覆われたら可視光で健康測定
◦ディスプレイやキーボード照明の ON/OFF などデバイス挙動に連携
という「実際の製品に即したモデル」が示されていました。
これに対して今回の US2025/0352130A1 は、
◦マイクロパーフォレーションの角度制御
◦送光・受光領域の幾何学的分離
◦光路の反射・散乱の最適化
◦不透明層の形状によるノイズ遮断
◦多波長測定の効率化
これらは 前特許 US12396677B2 に欠けていた“光学構造の精密化”を補完します。
つまり、前特許は「製品レベル」、今回の特許は「光学基盤の強化」という位置付けです。
図面の説明
図面は、前特許 US12396677B2 の図面と同じになっています。
Fig.2:マイクロパーフォレーション(マイクロ孔)の基本構造(図面は、US20250352130A1をご参照ください)

前特許 US12396677B2 でも微細穴(30〜70µm)が示されていました。しかし、今回の出願 US2025/0352130A1 では穴の構造を次のレベルへ引き上げています。
- 円形だけでなくスリット形状など任意形状に対応
- 穴の深さや角度によって光の指向性を制御
- 不透明層の表面処理でノイズ光を吸収
- 透明層との光路干渉を最小化
つまり、単なる“光の通り道”ではなく、光路制御の主要コンポーネントへと進化しています。
Fig.3:送信用と受信用を分けた構造(図面は、US20250352130A1をご参照ください)

Fig.3 では、マイクロ孔が送光領域(320)と受光領域(321)に分かれています。中央には穴のない分離領域(322)があります。
本発明では領域境界の光学的性質にまで踏み込み、送光光が受光側を汚染するクロストークを極限まで排除する構造になっています。
さらに、穴の角度設計と組み合わせることで、
◦送光は手のひら方向へ的確に届く
◦受光は体内から戻る反射光だけを拾う
という高効率な光路が構成されます。
Fig.6:光学モデルの進化(図面は、US20250352130A1をご参照ください)

前特許 US12396677B2 では PPG の利用方法が主でしたが、今回の出願 US2025/0352130A1 はさらに理論的に踏み込んでいます。
- 組織内での散乱・吸収のモデル化
- 多波長光に対する反射特性
- フォトダイオードの受光角最適化
- 光の再入射率の向上
Fig.1A, Fig.1B:センサーの位置と手のひらの位置関係(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
センサー位置は前特許と同様にパームレスト横。しかし今回(US2025/0352130A1)は筐体材質の散乱特性まで踏み込んでおり、光学的前提が改良されています。
Fig.4:センサーの断面図(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
構造は前特許と同じですが、孔の内壁コーティングや角度により非垂直光の効率を改善しています。
Fig.5:マイクロ孔が“角度付き”の特殊構造(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
前特許は単に「角度付き穴も可能」と触れていた程度でしたが、今回は送光角・受光角の対向配置を最適化し、光学フィルタとして働く高度な構造へ進化しています。
Fig.7A/B:近接によるスリープ解除(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
近接検知によるディスプレイON/OFFは前特許と同じですが、近接検知にも光学構造の改良が反映するので、反射光がより正確に検出されます。
Fig.8:ユーザー接近による自動キーボード照明(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
キーボード照明の制御機能は引き継がれつつ、暗所での反射ノイズの低減が期待できる光学設計になっています
Fig.9:健康情報のリアルタイム表示(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
生体情報のリアルタイム表示においても、多波長測定の最適化により、心拍・酸素飽和度の精度向上が見込まれます。
Fig.10:モード切り替えのフローチャート(図面は、US20250352130A1をご参照ください)
動作フローは前特許とほぼ同じですが、モード切替の根拠となる光学条件の精緻化が今回の特徴となります。
発明のポイント(前特許からの改良点)
今回の特許出願 US2025/0352130A1 は、前特許 US12396677B2 を土台として、光の取り回しそのものを最適化以下の点で大幅に改良されています。
① 光学性能が飛躍的に向上
US2025/0352130A1 では光の取り回しそのものを最適化しています。
◦マイクロパーフォレーションの角度、深さ、形状による光路制御
◦送受信分離によるクロストーク低減
◦内壁反射率の改善
◦多波長対応の効率化
これは前特許では弱かった“光学精度の土台”を補完するものです。
② クロストーク耐性の大幅改善
送光と受光の分離はPPGの性能の大幅改善につながります。この発明では、幾何学的+材料の両面から改善しています。
③ 多波長同時計測が可能
緑光・赤光・IR光をそれぞれ最適な光路へ誘導できるため、以下の項目が高精度化します。
◦血流
◦水分量
◦酸素飽和度
◦血圧推定
④ 近接検知の精度向上
前特許の「IR で位置検知 → 覆われたら可視光に切替」のモデルをより安定化しています。
⑤ 暗所での誤作動を軽減
外光をマイクロパーフォレーション構造が吸収し、センサーが不要なチラつきを拾いにくくなります。
今後の展望
前特許US12396677B2 と 今回の特許出願US2025/0352130A1 を読み解くと、Apple が描く未来像がより鮮明になります。
- MacBook が“触れるだけで健康チェックするデバイス”へ進化する。
- 精密な光学構造により、医療級センサへ近づきます
- 多波長計測により血圧推定・水分量・ストレス指標など高機能化
- デバイスの挙動(キーボード照明、電源管理)と深く連動
- 完全不可視のヘルスセンシングが生活に溶け込む
まとめ
- US20250352130A1 は、前特許 US12396677B2 の“不可視バイオセンサー”を光学的に大幅強化する発明です。
- 送光・受光構造、穴の角度、光路設計など、計測精度を決定する要素が進化しました。
- MacBook が “触れるだけで健康情報を読み取るデバイス” になる未来が、より現実的になっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
特許情報
特許番号:US 2025/0352130 A1
タイトル:Portable Electronic Device Having An Integrated Bio Sensor
発明者:Qiliang Xu, Richard G. Huizar
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/11/20
出願日:2025/7/29
特許の詳細については、US12396677B2を参照してください。
※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。


