「タッチセンサー」徹底解説:Appleが光干渉で復活させる次世代3D Touch(US2025/0237492A1)

IT特許

感圧式インターフェースの先端技術であった 3D Touch は iPhone 11 世代で姿を消しました。しかし先週公開されたAppleの特許は VCSEL(垂直共振器面発光レーザー) と 自己混合干渉(SMI) を組み合わせ、ガラス越しに“押し込み量”と“ドラッグ方向”まで読み取る全く新しいセンサーを提案しています。
この特許技術によれば、わずか数 µm のたわみも光学的に検出でき、従来の容量検知式センサーより高精度かつ薄型化が可能です。

この記事では、特許に込められた技術的背景と図面をひも解きながら、Appleのテクノロジーを詳しく解説します。

自己混合干渉(Self-Mixing Interference:SMI)とは

Fig. 1A, Fig. 1Bには、表示面(タッチ入力面)直下に VCSEL アレイとフォトディテクタを収めた薄型モジュールが配置された電子デバイスが示されています。

FIG. 3A は VCSEL+フォトダイオードの最小構成を示します。
押下でガラスがわずかに沈み、戻り光の位相が変わる様子が Fig. 3B, Fig. 3Cに示されています。Fig. 3Bは静的に 5 µm 変位したときの波形で、Fig. 3Cは周期変位に対する波形です。振幅だけでなく周波数成分も圧力と比例関係にあり、動的なジェスチャー解析に繋がります。

Fig. 4Aは VCSEL(400)の断面模式図です。上下に配置された分布反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR)ミラー(402・404)がキャビティ(406)を形成し、III–V 族半導体のゲイン領域で光を発振させます。レーザー光(410)は上部ミラーから外部へ出射されます。VCSELは、キャビティ自体が高いコヒーレンスを保ったまま外界と開放状態にあるという点が特徴です。

Fig.4Bに示すように、ユーザーがディスプレイ(タッチ面)を押し込むと、その僅かな変位で生じた反射光(412)が再びキャビティ(406)に戻ります。そこで元の発振光(410)と干渉し、新たな合成発振光(414)が生まれます。これが「自己混合干渉」です。
戻り光は
 • VCSEL 内部反射(固定位相)
 • タッチ面からの外部反射(可変位相)
の2成分から構成され、その位相差は Δφ = 4πL / λ(L:光路長、λ:波長)で表されます。位相差 Δφ が変わればレーザーの出力電力・波長・ジャンクション電圧など(干渉計パラメータ)が揺らぐので、これを検出信号として利用します。

Fig. 4Cのグラフ(420)は、フィードバックキャビティ長 L を掃引したときの出力電力 ΔP の変化を示します。理想的には

であり、ピーク間隔は λ/2 となります。たわみが 1 µm でも、波長 850 nm 帯の VCSEL なら 1.18 周期となり、観測可能な振幅変動になります。このように、周期に変換すれば、nm〜µm オーダーの押し込み量をカウンタで数えることで絶対変位に変換できます。

Fig. 4Dに示すように、指先や金属ボタンのように反射率が高いターゲットが近接すると、戻り光のパワーが増し、コサイン波は高調波を帯びた“歪んだコサイン”に変わります(グラフ 421)。波形の歪み=反射係数の指標でもあるため、装着する保護ガラスの材質違い・表面汚れの有無をキャリブレーションで吸収する手がかりにもなります。

入力面アーキテクチャ

Fig. 2Aは、透過型タッチ入力面の断面です。透過型ガラス+裏面 VCSELという構成で、指が近づくと反射率が変わり自己混合干渉が発生します。

Fig. 2Bは、偏向可能な反射タッチ入力面の断面です。反射膜付きガラス+VCSELという構成で、押下で反射面が VCSEL に近づき自己混合干渉が発生します。

Fig. 2Cは、偏向可能な混合モードタッチ入力面の断面です。透過+反射のハイブリッド構成で、反射量と透過量の両方を利用し、位置と押圧を同時取得します。

Fig. 2Dは、剛性板+弾性支持体の構成で、ガラス自体は曲がらず、バネ支持体が圧縮して距離変化発生することで自己混合干渉が発生します。

Fig. 2Eは、タッチ入力面上の入力を検出するためのレーザーシステムおよび光検出器を備えた電子デバイスの断面です。ガラス側にフォトダイオードが装着されており、反射光をダイレクト検知することし、低雑音化が図られています。

Fig. 2Fは、ガラス裏面に VCSEL、基板側にフォトダイオードという構成になっている。逆向き構成で実装自由度を確保しています。

モジュール設計とレンズ

FIG. 5A〜5D は、「自己混合干渉(SMI)」を最大化するために、VCSEL とレンズを組み合わせて、水平成分を持つビームを作る例を示します。斜め入射光は表面をなぞるドラッグ方向の検出に不可欠です。

Fig. 5Aでは、斜めビーム×単一VCSEL+側面レンズで光をガラス面に沿わせ、押し込み量とスワイプ方向を同時に検知します。

Fig. 5Bは、Fig. 5A にフォトダイオード (512) を追加し、VCSELと外付けフォトダイオードで信号を取得します。戻り光をフォトダイオード側でも拾い、検知感度を底上げしています。

Fig.5Cは、VCSEL 周囲に別配置した フォトダイオード (514) で斜め反射と直帰反射を使い分け、斜め・垂直双方の反射を測り、冗長化&高精度化しています。

Fig.5Dは、デュアルVCSELの構成で、片方は斜め、もう片方は垂直ビームです。タイムマルチプレックス駆動でクロストーク回避し、深さ+方向を同時追跡するデュアルセンサー構成です。

三点測距で XY+Z を一気に取るアーキテクチャー

Fig. 6は、単一ビームでの自己混合干渉をどう拡張し、実装上の課題(角度・クロストーク・感度)を解決するかを段階的に示しています。

Fig. 6Bは、基板上に3個のVCSEL(604a, 604b, 604c)を直角三角配置し、平面位置(XY)と押下量(Z)を一括測定します。中央は垂直ビーム、残りは斜めビームでドラッグ方向を検出します。反射板(608)で中央ビームの干渉効率を向上しています。

Fig. 6Cは、3 本の VCSEL を時間多重で順番に駆動する波形例です。(レーザ電流・波長・SMI 信号)。交互点灯で信号分離し、FFT 解析へ接続するクロストークフリー駆動です。

スペクトル解析による速度検出

自己混合信号を FFT 解析すると、基本波と 2 次高調波をもとに、位相差から移動方向を、周波数から速度を得られます(FIG. 7A〜7E)。正に“光ドップラーセンサー”です。

まとめ

このタッチセンサーは、以下の特徴をもっています。

  • 薄型化:従来のフォースセンサの層が不要なので、薄膜化が可能になります。
  • 高精度:干渉計ベースの技術で、nm 〜 µm オーダーを計測可能です。
  • 多用途:ディスプレイ、ボタン、さらには曲面筐体にも使用が可能です。

この特許で示されたタッチセンサーは、以前の3D Touch を大きく進化させたものです。Appleの様々な機種に搭載されることになるのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

特許情報

特許番号:US 2025/0237492 A1
タイトル:Self-mixing Interference Based Sensors for Characterizing Touch Input
発明者:Mark T. Winkler, Mehmet Mutlu, Omid Momtahan, Tong Chen, Wenrui Cai, Chau H. Nguyen, Glovanni Gozzini, Michael K. McCord, Orit A. Shamir, Prashanth S. Holenarsipur
出願人:Apple Inc.
公開日:2025/7/24
出願日:2025/4/11
特許の詳細については、US2025/0237492A1を参照してください。

【参考記事】[Patently Apple] (https://www.patentlyapple.com

※企業の特許は、製品になるものも、ならないものも、どちらも出願されます。今回紹介した特許が製品になるかどうか現時点では不明です。ご注意ください。

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